2 慢性心不全診断の実際
従来,心疾患患者の心機能評価を行う際には,左室収縮機能評価に重点が置かれていた.実際,慢性心不全の大規模臨床試験である V-HeFTⅠ試験においても,左室駆出率(LV ejection fraction : LVEF)が28%より低い症例はそれ以上の症例に比較して予後は悪い1).しかし,1980年代半ばから,心不全症例の30~ 40%ではLVEFで評価する左室収縮機能は保持されていることが報告され2)-9),このような症例では左室流入動態異常が認められることから,心不全症状の出現に左室収縮機能障害とならび,左室拡張機能障害が大きく寄与していることが明らかとなった.一般には左室収縮性が低下した心不全を「収縮不全」と,また左室収縮性が低下していない心不全を「拡張不全」と分類される.しかし,心不全例ではほぼ全例で収縮機能も拡張機能も低下しており,明確に「収縮不全」と「拡張不全」を区別することは必ずしも容易でない.そこで,最近では「収縮不全」を「左室収縮性が低下した心不全」,「拡張不全」を「左室収縮性が保持された心不全」と呼ばれることが多くなってきた.個々の症例においては,心筋機能(収縮機能,拡張機能)・心膜機能・弁膜機能・心房機能等を評価して,それぞれの特徴を理解するよう努めることが重要である.
慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure(JCS 2010)