1 心不全の病因
表1 心不全の原因疾患
・虚血性心疾患
・高血圧
・心筋症:遺伝性,後天性を含む
肥大型心筋症(HCM),拡張型心筋症(DCM),拘
束型心筋症(RCM),不整脈原性右室心筋症(ARVC),
緻密化障害等分類不能群
    (心筋炎,産褥心筋症,たこつぼ心筋症等も含む)
 以下,全身疾患や外的因子との関係が強い心筋症
浸潤性疾患:サルコイドーシス,アミロイドーシス,ヘ
モクロマトーシス,免疫・結合組織疾患
内分泌・代謝疾患:糖尿病,甲状腺機能異常,クッシン
グ症候群,副腎不全,成長ホルモン過剰分泌(下
垂体性巨人症, 先端肥大症), 褐色細胞腫,
Fabry病, ヘモクロマトーシス,Pompe病,
Hurler症候群,Hunter症候群等
栄養障害:ビタミンB1(脚気心),カルニチン,セレニ
ウム等の欠乏症,
薬剤:β遮断薬,カルシウム拮抗薬,抗不整脈薬,心毒
性のある薬剤(ドキソルビシン,トラスツズマ
ブ等),
化学物質:アルコール,コカイン,水銀,コバルト,砒
素等
その他:シャーガス病,HIV感染症
・弁膜症
・先天性心疾患:心房中隔欠損,心室中隔欠損等
・不整脈:心房細動,心房頻拍,心室頻拍等頻拍誘発性
     完全房室ブロック等徐脈誘発性
・心膜疾患:収縮性心膜炎,心タンポナーデ等
・肺動脈性肺高血圧症
 心不全は左室収縮性が低下している症例と,収縮性が保持されているあるいは軽度低下にとどまっている症例に分けて論じられるが,両者は全く異なる病態ではない.両者に共通して基礎疾患となり得る心疾患も少なくない.そこで両者を合わせ,心不全の原因となり得る疾患名を表1に列挙した.心筋梗塞や心筋症のように心筋組織が直接的に障害を受け心不全を発症する場合,弁膜症や高血圧等により長期的に負荷が心筋組織に加わり機能障害から心不全を発症する場合,頻拍や徐脈等のリズム異常により血行動態の悪化を招く場合等がある.また,全身性の内分泌・代謝疾患,炎症性疾患,蓄積疾患等の一表現型としての心不全,栄養障害や薬剤,化学物質といった外的因子による心筋障害から発症する心不全等,心不全の根本原因が心臓以外に存在する場合もある.「心不全とは心臓疾患が原因」という単純な発想で診ていると,その背後にある大きな治療ターゲットを見逃してしまう.このような見逃しを防ぐためには,詳細な病歴の聴取が重要である.若い心不全患者では食生活等についても聴取する必要がある.リズム異常が認められる患者では,それが心不全の原因であるか結果であるかを鑑別できれば治療方針が大きく変わってくる.そこで,健診等でリズム異常を指摘された,または自覚した時期,等の聴取が重要である.家族歴の聴取は遺伝性疾患の鑑別に有用である.他の疾患に対する治療内容の確認も必須である.身体所見を取る際には,心臓に関する点ばかりではなく,体格や他臓器の異常の有無をチェックすることも重要である.

 収縮不全患者で左室拡大と僧帽弁逆流を認めた場合,機能性僧帽弁逆流か,弁の器質的異常に基づく僧帽弁逆流かを鑑別する必要があり,僧帽弁逆流の程度のみならず弁の器質的変化の有無等も心エコーにて検討する必要がある.
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