3 病態別の治療
① 心機能障害による心不全
 心収縮能の低下に起因する慢性心不全に対する治療として,現在では強心剤ではなく心保護療法が主流となっている.この治療法には,ACE阻害薬,ARBとβ遮断
薬がある431)

1)ACE 阻害薬
 アンジオテンシンⅡは強力な血管収縮物質であり,さらに心血管系のリモデリングを引き起こす.アルドステロンは,腎でナトリウム・水保持に働き,血管系では酸化ストレスや血管炎を強力に促進する.ACE阻害薬は,RAA系を抑制し慢性心不全を治療する.多くの大規模臨床試験によると,ACE阻害薬の薬剤忍容性を規定するのは咳嗽であるが,小児では咳嗽は少ない.小児ではカプトプリル,エナラプリル,シラザプリル等の有効性が報告されている432)-435)

2)ARB
 アンジオテンシンⅡ受容体にはいくつかのサブタイプが存在するが,ARBは血管収縮作用があるAT1受容体の拮抗薬である.このため,AT1をブロックするのみな
らず,二次的に心血管保護作用のあるAT2受容体を活性化する効果も期待される.小児の慢性心不全で効果的だったとの報告もあるが,使用経験は少ない436)

3)β遮断薬
 β遮断薬の心機能改善の機序は,β受容体のダウンレギュレーション,徐脈化,カルシウムハンドリングの改善等様々な説が挙がっているが,詳細は不明である.カ
ルベジロールは小児心不全を対象とした最も大きな臨床試験では有意差は認められなかったが,サブ解析では左室を主心室とする症例に対しては有効で,これは他の小児を対象とした臨床試験の結果と一致する.カルベジロールはα,β受容体遮断作用と抗酸化作用を持ち,心筋リモデリングを抑制するだけでなく左室リモデリングを逆行させ左室を小さくし,収縮性の改善をもたらす.β遮断薬は,少量から開始し漸増する.忍容性があれば投与量が多い方が有効である.喘息を併発している場合は,投与に際し注意が必要である437)

4)ホスホジエステラーゼⅢ阻害薬
 β受容体下流の細胞内セカンドメッセンジャーであるcAMPのリン酸エステルを加水分解する酵素がホスホジエステラーゼⅢ(PDEⅢ ) であり,PDEⅢ 阻害薬は
cAMP分解のバランスを変え,β受容体を介さずに心筋細胞内カルシウム濃度を上昇させる.心臓では強心薬として収縮性を高め,血管では血管拡張を惹起し後負荷を下げる.この作用は心筋酸素消費量を増加させずに,またカテコラミンと異なりβ受容体刺激を介さないため耐性が生じない426),438).大人での長期使用は心不全の生命予後を悪化させることが知られているため,使用に際しては注意を要する.

5)利尿薬
 ループ利尿薬であるフロセミドは,効果が迅速である利点はあるが,結果としてRAS系を活性化するため長期予後の面からみると不利である.慢性心不全において
は作用時間の長いループ利尿薬(トラセミド,アゾセミド)の優位性が報告されている.トラセミドは抗アルドステロン作用があることも有利な点であるが,フロセミドを投与する際は低カリウム血症の予防も兼ねて,心筋保護作用のあるスピロノラクトンを併用することが多い.

6)CRT
 CRT(後述6-1)は,適切な薬物療法でも心不全の増悪を反復する重症心不全症例の中,左脚ブロック等の伝導障害による電気的非同期から左室収縮等の機械的非同期dyssynchronyを示す例に対して,右室と左室を同時にペーシングして心室内伝導障害による左室収縮のdyssynchronyを改善し収縮効率を向上させて血行動態を改善する新しい心不全治療の1つである.先天性心疾患例も含めた小児科領域における多施設のCRTの報告では,LVEFが不良なものほど有効例が多かったが,必ずしも全例で効果があるわけではないとの結果であった439)

7)和温療法
 非薬物治療として成人領域では,多施設研究等で効果が認められているが,小児では乳児の心室中隔欠損症に有効であったとの報告がある440)

② 血行動態による心不全

 多くの先天性心疾患では血行動態の異常が強く影響を受ける.個々の症例の血行動態の異常を把握した上で治療することが大切である.

1)容量負荷群
 心室中隔欠損等の左右短絡性疾患では,出生後肺血管抵抗の低下とともに左室前負荷増加による左心不全が出現する.心内膜床欠損(房室中隔欠損)で共通房室弁の逆流が強い例や,(全く病態の異なる)左室後負荷大動脈縮窄・離断合併では心不全が早期に出現する.

 フロセミドでうっ血を軽減させる.ジゴキシンについては,全例ではないが血行動態指標が改善したとの報告がある441).フロセミドとの併用で収縮性増大を認めた
が,心不全症状は改善しなかったとする報告がある442).また,大きい心室中隔欠損の重症例では,肺血流増加と左房圧上昇がみられたとの報告もある443).したがってジゴキシンは,ある程度の効果は期待できる場合とそうでない例があることに注意すべきである.

 心不全を呈するような大きい心室中隔欠損では短絡量は肺血管抵抗と体血管抵抗のバランスに依存する.酸素は肺血管拡張作用と体血管収縮作用があるため,
強い低酸素血症に対する一時的な治療は控える.血管拡張薬は,肺血管と体血管への作用の程度により効果が異なる.カプトプリルやエナラプリルも有用と考えられているが,これらの血管拡張薬を使用するにあたっては低血圧を注意深くモニターしなければならない432)-434)

 左心系の弁逆流性疾患では,ACE阻害薬および利尿薬が基本となる.

2)圧負荷群
 新生児で心不全を呈する重症肺動脈弁または大動脈弁狭窄(critical PSまたはcritical AS)では,診断が付き次第PGE1 を投与し,バルーン弁形成術を行う.しばしば夫々の心室の低形成を伴い,それらには手術を考慮する.

 小児期以降の肺動脈弁狭窄,大動脈弁狭窄,大動脈縮窄は多くは無症状であるが,高血圧の進行とともに心筋障害が進行する.心不全の進行が遅い理由の1つは,先天性圧負荷による心肥大では,肥大が生理的なhyperplasiaの形をとること,肥大に見合った冠状動脈分布があることによる444)

3)動脈管依存性心疾患群
 新生児期の問題である.左心低形成症候群,大動脈縮窄・離断では体血流が動脈管に依存している.生後,動脈管の閉鎖に伴いショック症状(ductal shock)となる.しばしば低血糖,急性肝不全を引き起こす.

 肺血流が動脈管に依存している疾患(肺動脈閉鎖,重症肺動脈狭窄,重症ファロー四徴症等)では動脈管閉塞により肺血流が遮断され重篤な低酸素血症と代謝性アシドーシスに陥る.

 これらの疾患では診断後,すぐに動脈管を拡張させるためにPGE1 を用いる.酸素は動脈管を収縮させるため蘇生処置時以外は禁忌となる.

4)肺静脈閉塞群
 新生児,乳児で問題となる.肺静脈閉塞のある総肺静脈還流異常,重症僧帽弁狭窄,重症三心房心等では高度の肺静脈うっ血から呼吸不全,チアノーゼを来たし,症状や胸部レントゲン像上,肺炎や呼吸器疾患と間違われることもある.

 まずフロセミドで肺うっ血を改善させる.血圧が低い場合にはβ受容体刺激薬を用いる.酸素およびβ受容体刺激薬は防御的収縮をしている肺血管を弛緩させ脈血流
を増加させるため禁忌である.呼吸困難が強い場合には積極的にPEEPをかけて人工換気とする.これらの重症例は内科的治療を行いつつ緊急の外科的治療の適応である.通常,バルーンカテーテルによる心房中隔切開術(BAS:balloon atrioseptostomy)は適応がない.

5)低酸素群
 新生児期に問題となる場合と,手術不能例で成人期に問題となる場合がある.
① 新生児期
 完全大血管転位では高度の低酸素症とアシドーシスのため循環障害を来たす.チアノーゼが高度な場合,まずPGE1を用いて肺血流を増加させ,心房レベルでの有効左右短絡を増やして動脈血酸素濃度の上昇を図る.卵円孔の小さい例ではBASを行う.
② 成人期
 チアノーゼ性心疾患で心内修復を受けないまま成人に達し心不全を呈する例がある.心筋障害による収縮性低下・拡張性低下,心室収縮非同期が問題である.これらを基礎に,房室弁や半月弁の閉鎖不全,心房細動等の頻拍性不整脈や洞機能不全または房室ブロックの徐脈が心不全を助長する.

 治療は対症的である.肺動脈減少性疾患では,低酸素血症の改善のためカテーテル治療による肺動脈狭窄拡大も試みられる.弁の逆流に対して血管拡張薬は効果が期待できるが,同時に体血管抵抗を低下させ心内右左短絡を増し,チアノーゼを増悪させる可能性もある.低酸素への代償としての赤血球増多による高ヘマトクリットをみるが,瀉血は相対的貧血をもたらし心不全の増悪要因となる可能性があるばかりでなく445),血栓症のリスクを増やす446)

 心不全症状を伴う Eisenmenger 症候群は,やはり対症療法である.肺血管抵抗が高いため血管拡張薬は疑問である.特発性肺高血圧には,PGI2,Bosentan(ET受容体遮断薬),Sildenafil が使用ないし試用されるが,この群を含め長期効果は未定である.

6)心筋収縮能低下群および冠状動脈異常
 左冠状動脈肺動脈起始症等の冠状動脈奇形,川崎病後冠状動脈閉塞では,心筋虚血そのものおよび僧帽弁閉鎖不全による心不全がある.内科的には,血管拡張薬,利尿薬を用い,β遮断薬も考慮される.基本的には手術であるが,川崎病後冠状動脈閉塞ではカテーテルによる血行再建術が試みられている447)

7)特異な疾患
① Ebstein 病
 三尖弁奇形による病態が主であるが,左室機能も低下する448).心房間交通孔があれば右左短絡からチアノーゼが出現し,心機能低下に拍車を掛け予後を悪くす
449).さらに高頻度に合併するWPW症候群による頻拍発作は突然死のリスクがある.

 内科的には疾患特異な治療は無い.手術適応もコンセサスが得られておらず,最重症例は心臓移植も行われる.
② 修正大血管転位
 大動脈へ拍出する右室が経年的に機能不全になることが知られ,体循環側の房室弁である三尖弁閉鎖不全(しばしばEbstein様奇形を伴う),さらに本症特有の進行性の房室ブロックも,心不全の増悪因子である450),451).これまでに本症では薬物の有効性が証明されていない.三尖弁閉鎖不全からの心不全を防ぐために,左室圧が低い例では肺動脈絞扼を勧める意見がある452).また,左室から大動脈へ駆出する目的で心房位血流転換(Mustard手術またはSenning手術)とRastelli手術またはJatene手術を組み合わせるDouble Switch手術が行われる453).しかし未だその評価は一定ではない453).外科適応が無ければ心臓移植を考慮する.

8)術後心不全
 ここでは,先天性心疾患特有の手術の術後にみられる心不全の基礎病態と特異的な治療法のみを述べる.一般的な心不全治療はこれらの病態にも適応される.
① Rastelli 手術
 肺動脈閉鎖性心疾患で,人工血管等の心外導管によって肺動脈と静脈側(通常右室)をつなぐ手術である.導管縫着のための比較的大きい心室術創,死腔としての導管,弁閉鎖不全,進行性の導管狭窄等が心不全の基礎病態である.

 特異的治療は導管狭窄解除である.カテーテルによる解除が試みられるが,石灰化が強い例が多く,長期の効果は期待できない454).再手術を要する.
② 完全大血管転位,心房内血流転換術後
 完全大血管転位では右室から大動脈が起始するが,心房内血流転換術(Mustard手術,Senning手術)後では,右室から大動脈へ駆出する血行動態が残存する.右室は経年的に機能が低下し心不全となる450).動脈側房室弁(三尖弁)閉鎖不全は強力な増悪因子である.また,心房内手術操作が大きいことによる心房性不整脈特に洞機能不全症候群も心不全増悪因子であると同時に,突然死のリスク要因でもある.

 右室不全進行予防の点で修正大血管転位と同様に考える(前項参照).洞機能不全による著しい徐脈に対してはペースメーカ植込みの適応がある.右室不全が進行した例では,心房内手術を元に戻し,動脈位転換術(Jatene型手術)へ変換する方法がある.これは手技が困難でリスクが高い上に,未だ評価が定まっていない.最終的には心臓移植を考慮せざるを得ない例がある.
③ フォンタン型手術後
 体静脈ないし右房を直接肺動脈に吻合する手術で,機能的な単心室に行われる.右心室を通過しないため,中心静脈圧が高く,心拍出量は少ない.この高い静脈
圧が左室の前負荷となる.うっ血性心不全は,心機能低下,房室弁逆流,心房の著しい拡張,心房性頻脈,体肺側副血行路の出現発達等による.急性心不全は静脈系血栓の肺動脈塞栓を考える.

 うっ血性心不全に対しては,通常のように利尿薬,血管拡張薬を使用するが,前負荷依存性が強く循環予備力が低いので注意を要する.心房性頻拍発作は心不全のみならず突然死のリスクとなるので,アミオダロンを含む積極的な薬物治療やカテーテル焼灼術を行う.進行する心不全例は,TCPC(Total Cavo-Pulmonary Connection)型への変換あるいは心臓移植を考慮する455),456)

9)不整脈群
① 頻脈性不整脈
 乳児期の発作性上室性頻拍が心不全症状で発症することが多い.氷水に浸したタオルを,鼻根部を中心に顔面にあてる(ice bag法)か,ATDの急速静脈内投与
が,診断と治療を兼ねて第一選択である.再発や,難治性のものもある. 持続性上室性頻脈(inappropriate sinus tachycardiaを含む)では,いわゆる頻拍誘発性
心筋症(tachycardia induced cardiomyopathy)による心不全がある.薬剤の有効性は低く,カテーテル焼灼またはカテーテルアブレーションが有効な例もある.
② 徐脈
 先天性完全房室ブロックは新生児期乳児期早期に心不全を呈する例がある.ペースメーカ植込み適応である.その他,心臓術後の完全房室ブロックでは,心不全増強因子でもあるため,積極的なペースメーカ植込みの適応となる.

10)胎児心不全
 超音波診断法の進歩により,胎児心臓病が胎内で診断される機会が増加している.胎児の頻脈性不整脈は,その当初から胎内治療が有効な手段として認識されているが,徐脈性不整脈では有効な治療法は証明されていない.
① 胎児頻脈性不整脈
 胎児心エコー図により,1:1 で房室伝導している上室性頻拍と,2:1~ 3:1で房室伝導している心房粗動,および房室伝導が解離している心室性頻拍を診断する.
同時に,脈拍の持続の程度,胎児水腫や心奇形の合併を診断する.1:1房室伝導の時には,上大静脈-上行大動脈同時血流波形よりVA間隔がshortかlongかを鑑別する.肺成熟より早い在胎週数では,胎児水腫へ進行していてもまずは胎内治療を行う.肺成熟の後では,胎内治療と早期娩出の利点・欠点をよく考慮し,治療方針を決定する.胎内治療では,一般にジゴキシンを第一選択薬とし,無効時に第二選択薬としてフレカナイド,ソタロール,アミオダロンあるいは他にプロカインアミドや
β遮断薬を使用する457),458).しかし,既に胎児水腫へと進行している症例,あるいはlong VA間隔の上室性頻拍時では,最初から第二選択薬を単独,またはジゴキシンと併用で胎児治療を開始する.
② 胎児徐脈性不整脈(胎児心拍数が100/ 分未満)
 主に完全房室ブロックの時であり,心奇形を合併する症例と,正常心内構造で母体SSA(Sjögren’s Syndrome A)抗体による症例に大別される.胎内治療は確立
されておらず,分娩させて胎外での治療の利点をよく検討して分娩の適応を決定する.胎児心拍数が55/分未満の著明な徐脈の胎児では,β刺激薬(サルブタモール,リトドリン,テルブタリン)の母胎投与により胎児の心拍数や心機能を上昇させる459).母体の抗SSA抗体による先天性完全房室ブロックでは,母体にデキサメサゾンやベタメタゾン等の胎盤通過性があるステロイドを投与し,房室ブロック自体,および合併する心筋炎に対する胎内治療を行うことが考えられる460)
③ 胎児先天性心奇形
 先天性心奇形に対する胎内治療としては,現時点では有効性が確認され多施設で実用化されているものはない.現在米国の1つの施設から,妊娠中期の大動脈弁閉鎖に対して経皮的大動脈弁バルーン形成術を施行して左心低形成症候群への進行を予防する.卵円孔が閉鎖している左心低形成症候群に対して心房中隔をバルーン拡大する方法の有効性が報告されている.我が国でも胎児が医療の対象となる1人の人として認知されはじめ,双胎間輸血症候群や胎児胸水等心臓以外の分野での胎内治療が開始されている.



 
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慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure(JCS 2010)