MUSTIC( 467)
MIRACLE( 468)
MUSTIC-AF( 469)
COMPANION( 474)
CARE-HF( 475)
Total( 95%Cl)
Total events: 86(CRT),
61(Control)
Test for heterogeneity: Xz=3.66, df=4 (P=0.45),
I 2=0%
Test for overall effect: Z=0.21( P=0.84)
1/29 7/263 1/25 48/617 29/409 1343 0/29 5/269 0/18 18/308
38/408 1028 0.75 7.58 0.86 34.87 55.94 100.00
3.11( 0.12, 79.43)
1.44( 0.45, 4.61)
2.27( 0.09, 58.84)
1.36( 0.78, 2.38)
0.74( 0.44, 1.22)
1.04( 0.73, 1.46)
コントロールが有効 試験名(文献) CRT n/N Control n/N オッズ比
95%CI Weight (%) オッズ比 95%Cl CRT が有効
0.1 0.2 0.5 1 2 5 10
試験名(文献) 患者数NYHA
クラス
LVEF
(%)
洞調律
/AF
QRS幅
(ms) ICD エンドポイント主な結果
MUSTIC-SR(467) 58 Ⅲ ≦35 洞調律≧150 No 6分間歩行,QOL,pVO2,
入院
CRT-Pは6分間歩行,QOL,
pVO2を改善,入院を減少した
MIRACLE(468) 453 Ⅲ,Ⅳ ≦35 洞調律≧130 No NYHAクラス,QOL,pVO2 CRT-PはNYHA,pVO2,6分間
歩行を改善した.
MUSTIC-AF(469) 43 Ⅲ ≦35 AF ≧200 No 6分間歩行,QOL,pVO2,
入院
効果判定された例では,CRT-P
はすべてを右室ページングに比して改善,入院を減少した
PATH-CHF(470) 41 Ⅲ,Ⅳ ≦35 洞調律≧120 No 6分間歩行,pVO2 CRT-Pは6分間歩行,pVO2 を
改善した
MIRACLE-ICD(471) 369 Ⅲ,Ⅳ ≦35 洞調律≧130 Yes 6分間歩行,QOL,入院CRT-Dはすべてをベースライ
ンより改善した
CONTAK-CD(472) 227 Ⅱ,Ⅳ ≦35 洞調律≧120 Yes 死亡+ 心不全入院+VA,
pVO2,6分間歩行,NYHA
クラス,QOL,LVEDD+LVEF
CRT-DはpVO2,6分間歩行を改善,LVEDDを減少,LVEF を増加した
MIRACLE-ICDⅡ(473) 186 Ⅱ ≦35 洞調律≧130 Yes VE/CO2,pVO2,NYHAクラス,QOL,6分間歩行,
左室容量/LVEF
CRT-DはNYHA,VE/CO2, 左室容量,LVEF を改善した
COMPANION(474) 1520 Ⅲ,Ⅳ ≦35 洞調律≧120 Yes/No (1)総死亡または入院(2)総死亡
CRT-P,CRT-Dは(1)を減少した
CRT-Dのみが(2)を減少した
CARE-HF(475) 814 Ⅲ,Ⅳ ≦35 洞調律≧120 No (1)総死亡または入院(2)総死亡
CRT-Pは(1)と(2)を減少した
1 心臓再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy,CRT)
左室収縮不全は,しばしば房室伝導障害や心室内伝導障害を合併する.房室伝導障害は,心房収縮の至適タイミングを変化させ,心拍出量を低下させる.心室内伝導障害,特に左脚ブロックは左室全体の同期的収縮を障害し,収縮時相がずれるdyssynchronyを生じ,左室ポンプ機能を低下させる.さらに僧帽弁閉鎖不全を助長し,左室拡大(左室リモデリング)を来たす461).伝導障害は心不全を増悪させ,生命予後を悪化させる.心室内伝導障害は通常QRS幅の延長として認識されるが,慢性心不全例の約1/3が120 msec 以上のQRS波を示し,その多くは左脚ブロックである197),462).LVEF低下を認める心不全例を対象としたEVEREST試験では463),QRS幅が120 msec 以上の群は120 msec 未満の群に比して総死亡率が24%,心血管死または心不全入院が28%高かった.なおdyssynchronyの評価法として,心電図は必ずしも十分ではなく,心エコー法がより正確とされる.
① CRT の臨床効果
1990年代に左室収縮のdyssynchronyを伴った心不全の治療として両室ペーシングが開始され464),465),CRTと定義された.その効果を検証する目的で2001年以降10件以上のランダム化前向き試験が実施, 報告された466)-474).ほとんどの試験が薬物治療抵抗性のNYHAⅢ度またはⅣ度の重症心不全で,LVEF 35%以下,洞調律,QRS幅が120~ 150 msec 以上の症例を対象としている(表13)475).最近の試験は除細動機能を有するCRT(CDT-D)を用いている.その結果,CRTは心機能(NYHAクラス)を改善し,運動耐容能(6 分間歩行距離)を向上し,QOLを改善し,左室内径を縮小し(左室リモデリングの改善),LVEFを増加することが示された(表13)475).さらにCOMPANION 472)は総死亡または心不全入院の減少を(CRT-Dは総死亡を減少),CAREHF473)は心不全入院のみでなく総死亡の減少を示した.COMPANION 472)の予備的データとCONTAK-CD 471),InSync-ICD 476),MIRACLE 467),MUSTIC 466)のメタ解析でも,CRTは総死亡を26%減少させた477).以上より,日本循環器学会「不整脈の非薬物治療ガイドライン(2006年改訂版)」236)では,十分な薬物治療を行っても改善しないNYHAⅢ度ないしⅣ度の慢性心不全で,LVEF35%以下,QRS幅130 msec 以上の心室内伝導障害を有する場合をCRTのClassⅠ適応とした.最近の欧米のガイドラインは,QRS幅が120 msec 以上を適応としているが461),475),これは多くの臨床研究が120 msec 以上の例を対象としており,試験結果からも妥当である.ただしCOMPANION 472),CARE-HF 473) では,QRS幅がそれぞれ148 msec 以上,160 msec 以上の例で死亡率が有意に減少しており,生命予後の観点からは,より幅広いQRS例(150 msec以上)ほど効果が顕著といえる.なお,右脚ブロック例に対するCRTの効果として,MIRACLE 467)のサブ解析では,特に左脚前枝または後枝ブロックを伴う例においてCRTは心機能,運動耐容能,QOLを改善した478).しかしながら,MIRACLE 467)とCONTAK-CD 471)のプールされたデータの解析ではむしろ否定的であった479).右脚ブロックを示す例に対するCRTの適応は今後の課題である.
一方,徐脈に対してペースメーカが適応となる場合,右室ペーシングでは心房細動や心不全発症を介して生命予後が悪化することが知られている480),481).これは右室心尖部ペーシングが左室収縮のdyssynchronyをもたらすためで,これを解決する方策としてCRTがある.RDCHFは,NYHAⅢ度,Ⅳ度の心不全患者を対象として,右室ペーシングと両室ペーシングの効果を比較検討し,後者が心機能,運動耐容能をより改善したことより,CRTへのアップグレードの有用性を示した482).
② CRT 適用に際しての留意点
1)ICD 機能の付加
CRT適応例は心不全と同時に心臓突然死のリスクを有するが,CRTの心臓突然死に対する効果は明確でない.ICDは高度左室機能低下例(LVEF< 30~ 35%)
の生命予後を改善する199),243),245),483).CARE-HF試験をさらに8か月間延長,観察した検討では,CRTにより心不全死が45%,突然死が46%減少した484).一方,CAREHF試験を含めた主要なCRT臨床試験のメタ解析の結果では,ペーシング機能のみのCRT-Pは総死亡,心不全死を減少するものの,心臓突然死の予防効果はなかった(図7)485).別のメタ解析では,CRT-Pにより心臓突然死の相対危険度が1.99(CI,0.95~ 4.16)に増加した486).CRT-P とCRT-Dの効果を比較検討した研究はないが,COMPANIONでは薬物治療(OPT) 群(308例),CRT-P群(617例),CRT-D群(595例)の3 群間で比較検討された487).総死亡(/100人・年)はOPT群が20.5,CRT-P群が16.1,CRT-D群が13.5で,CRT-D群のみで有意に低下した.心臓突然死についてみると,OPT群が4.8であったのに対し,CRT-P群は5.9とむしろ増加し,CRT-D群は2.2と低下した.ヨーロッパ4施設の前向き登録研究では488),CRT-DがCRT-Pに比して死亡率を20%(P= 0.284),心臓突然死を96%(P< 0.002)減少させた.以上より,CRT-PではなくCRT-Dにより,総死亡,心臓死とともに心臓突然死も減少する可能性があり,特にICDの適応がある場合はCRT-Dが推奨される.CRT-Pの効果に関しては,心不全死を減少する結果,心臓突然死の割合が増加するのかもしれない485).CRTによる左室心外膜ペーシングにより,QT間隔延長とともに心内膜側─心外膜側間の不応期の差が拡大し,致死的不整脈が起きやすくなることが指摘されている489).なおCRT-DはCRT-Pに比して高額であり,費用対効果も考慮しなければならない.欧州のガイドラインでは,CRT-Dの適応となるのは良好な身体機能が1年以上期待できる場合とされている475).
2)心房細動への対応
CRTの効果に関する臨床研究のほとんどは洞調律例を対象として実施された(表13).一方,心不全例はしばしば心房細動を合併し,NYHAクラスの進行とともに
頻度が増加し,Ⅳ度では50%に達する490).しかしながら心房細動例におけるCRTの効果は未だ十分に検討されていない.心房細動は不規則で,またしばしば頻
脈となり,CRTのペーシングが十分に作動しない可能性がある.MUSTIC-AF試験468)では,慢性徐脈性心房細動に対してペーシング適応のある例において右室
VVIペーシングとCRTの効果が比較検討され,運動耐容能,QOL,入院のすべてでCRTが右室ペーシングより優っていた.一方,心房細動のレートコントロール後の
心室ペーシング率が85%より大であった群(平均88%)と,85%以下と低かったために房室接合部アブレーションを追加し,ペーシング率を上げた群(平均98%)を比較検討した試験では491),アブレーション群でのみCRTにより洞調律群と同程度の心機能,運動耐容能の改善が認められた.エビデンスは十分ではないが,欧州のガイドラインでは,慢性心房細動例で,房室接合部アブレーションの適応となる場合をCRTのClassⅡ aとしている475).慢性心房細動例にCRTを適用する場合,ペーシング率を十分に確保できない場合は房室接合部アブレーションを考慮すべきであろう.
3)Narrow QRS例におけるdyssynchronyの意義
心室内伝導障害は,通常は幅広いQRS波で診断されるが( 電気的dyssynchrony),QRS幅が120 msec 未満(narrow QRS)であっても機械的dyssynchronyは起こり得る492).心エコー法がその検出に有用であり,Mモード,ドプラ法,組織ドプライメージング(TDI)等が用いられる.QRS幅120 msec 未満で,心エコー法でdyssynchronyが検出された心不全例に対して,CRTの効果を検討した3つの臨床試験493)-495)のメタ解析では,CRTによりNYHAクラス,LVEF,運動耐容能の改善が得られた496).QRS幅が150 msec 未満の心不全例を対象としたDESIREでは,心エコー法でdyssynchronyを認めた群において,認めない群より有意な改善が得られた497).一方,NYHAⅢ度,LVEF 35%以下,QRS幅が130 msec未満で,心エコー法にてdyssynchronyを認めた心不全例を対象としたRethinQでは498),CRTはコントロール群に比してNYHAクラスを改善したものの,最大酸素消費量,運動耐容能,QOLには効果がなかった.ただし,QRS幅が120 msec 以上の例では最大酸素消費量の改善が得られた.CRTは,narrow QRSであってもdyssynchronyを認める例では有効な可能性もあるが,dyssynchronyの判定法が未だ確立されておらず,現時点ではQRS 幅が120 msec以上の例が適応となる461),475).
4)CRT 不応例の存在
QRS幅が広いほど(150 msec 以上)dyssynchronyも著明になるが,幅広いQRS波が必ず機械的dyssynchronyを伴うとは限らない492).これまでの臨床試験はQRS幅120~ 150 msec以上を対象としてきたが(表13),約30% の例でCRTの効果が得られなかった(CRT不応例)492).これは電気的dyssynchronyイコール機械的dyssynchronyではないためで,CRTを適用する際に留意すべきであろう.機械的dyssynchronyの検出とCRTの効果の予測に心エコー法が有用な可能性がある499).しかし,dyssynchronyとCRT反応性を心エコー法により前向きに検討したPROSPECTでは,12の測定項目の中でCRT反応例と不応例を判別できるものはなかった500).CRT適応決定における心エコー法の役割は今後確立されるべきであろう.なおCRT不応性の他の成因として,左室ペーシングリードを至適静脈へ挿入することが困難な場合や,至適部位に挿入されても瘢痕等のためペーシングが不能な場合等がある501).
5)無症候または軽症心不全例への適応
左室収縮不全を合併した心疾患は,左室リモデリングによりさらに収縮能が低下し,心不全が増悪する.CRTは左室リモデリングを改善するため,心不全の早期か
ら開始することにより,リモデリングと心不全増悪の抑制に有用な可能性がある.REVERSEでは,NYHAⅠ度またはⅡ度で,LVEF 40%以下,QRS幅120 msec以上の心不全例に対するCRTの効果が検討され,CRTは左室容量を縮小し,駆出率を増加させ,心不全による入院のリスクを減少した502).一方,左室収縮不全例における突然死一次予防策としてICDが有効である199),243),245),483).MADIT-CRTでは,心不全症状が軽度のQRS幅延長を伴う心機能低下例において,CRT-Dが死亡リスク,心不全イベントを抑制するかが検証された503).対象はNYHAⅠ度またはⅡ度,LVEF 30%以下,QRS幅130msec以上の心不全例で,CRT-DはICDに比して心不全発症を抑制し,左室容量を減少させ,駆出率を増加させた.特にQRS幅が150 msec 以上の症例で効果が認められた.総死亡には差を認めなかった.以上より,CRTを心不全の早期より用いることにより,さらなる心機能の改善と生命予後の改善が得られる可能性がある.最近のCARE-HF 474)の追加的解析では,試験基準より軽症の心不全症状を呈した患者群(NYHAⅠ /Ⅱ度)においても重症群と同様のCRTの予後改善効果が認められた504).現在,NYHAⅠ~Ⅲ度の心不全を伴う房室ブロック例におけるCRTの効果も検証されている(BLOCK HF)505).
CRT の適応
ClassⅠ
● 最適の薬物治療でもNYHAⅢ度または一時的にⅣ度の慢性心不全を呈し,LVEF 35%以下,QRS幅120 msec 以上で,洞調律を有する場合(エビデンスレベル
A)236),461),466)-477)
ClassⅡ a
● 最適の薬物治療でもNYHAClass Ⅲまたは一時的にClassⅣ の慢性心不全を呈し,LVEF 35 % 以下,QRS幅120 msec以上で,心房細動を有する場合(エビ
デンスレベルB)236),468),489)
● 最適の薬物治療でもNYHAⅢ度または一時的にⅣ度の慢性心不全を呈し,LVEF 35%以下で,ペースメーカが植込まれ,または予定され,高頻度に心室ペーシ
ングに依存する場合(エビデンスレベルC)478)-480)
ClassⅡb
● 最適の薬物治療でNYHAⅠ度またはⅡ度の慢性心不全を呈し,LVEF 35%以下で,ペースメーカあるいはICDの埋込みが予定され,高頻度に心室ペーシングに
依存することが予想される場合(エビデンスレベルC)461)
ClassⅢ
● LVEFは低下しているが無症状で,ペーシングやICDの適応がない場合(エビデンスレベルC)480),500)
● 慢性疾患により身体機能が制限されたり,余命が1年以上期待できない場合(エビデンスレベルC)461),475)
CRT-D の適応
ClassⅠ
● 最適の薬物治療でもNYHAⅢ度または一時的にⅣ度の慢性心不全を呈し,LVEF 35%以下,QRS幅120 msec 以上,洞調律を有し,ICDの適応となる場合(エ
ビデンスレベルA)236),243),461),466)-477),481)-483)
ClassⅡ a
● 最適の薬物治療でもNYHAⅢ度または一時的にⅣ度の慢性心不全を呈し,LVEF 35%以下,QRS幅120msec以上で,心房細動を有し,ICDの適応となる場合
(エビデンスレベルB)236),243),468),481)-483),489)
● 最適の薬物治療でもNYHAⅢ度または一時的にⅣ度の慢性心不全を呈し,LVEF 35%以下で,既にICDが植込まれていて,または予定され,高頻度に心室ペー
シングに依存する場合(エビデンスレベルB)478)-480),500)
ClassⅢ
● LVEFは低下しているが無症状で,ICDの適応がない場合(エビデンスレベルC)500)
● 慢性疾患により身体機能が制限されたり,余命が1年以上期待できない場合(エビデンスレベルC)461),475)
表13 心臓再同期療法(CRT)の効果を検証した各臨床試験の患者背景,試験エンドポイント,主な試験結果475)
NYHA=New York Heart Association;LVEF= 左室駆出率;LVEDD= 左室拡張末期径;AF= 心房細動;ICD= implantable
cardiovascular defibrillator;QOL= quality of life;pVO2 = peak oxygen consumption;CRT-P= biventricular pacemaker;CRT-D=
biventricular pacer with a defibrillator;VE/CO2 =ventilation/carbon dioxide ratio;VA=心室性不整脈
図7 CRT-Pの心臓突然死に対する効果のメタ解析485)
慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure(JCS 2010)