高齢者では記銘力低下,見当識障害,難聴,構語・発語障害,認知症,意識障害,それに独り暮し等のために,正確な病状・病歴を聞き取ることが容易でない.また,身体活動が低下しているために,労作時呼吸困難等の心不全症状が現れにくい.時には,食思不振や悪心等の消化器症状,見当識障害や意識障害,錯乱,せん妄等の精神・神経症状等の非特異的症状が前景に出てくる.これらは診断や治療の遅れを誘いやすく400),高齢女性では特に留意すべきである401).慢性閉塞
性肺疾患による呼吸困難,腎不全・低アルブミン血症による浮腫等,心不全と鑑別すべき病態も多い.高齢者心不全の診断に際しては,米国Franingham研究のうっ血性心不全診断基準を基本に,まず聞き取りと身体所見を確認し,胸部X線や心エコー図等を参照して確診へと導く.高齢者では拡張不全の鑑別診断がより必要であり,ドプラ法による左室流入波形からの拡張早期急速流入(E)と心房収縮期流入(A)との比E/Aや,組織ドプラ法による僧帽弁輪部運動速度(E’)を絡めたE/E’,さらには左房容量等,心エコー図を中心に評価する.BNPの血中濃度測定は心不全の診断的意義において高い評価を得ているが,高齢者に限ってみるとエビデンスがほとんどない.加齢に伴う濃度上昇と相まって,少なくとも若年・壮年者の診断レベルはそのまま活用できず,絶対値としての判断には限界がある402).冠動脈硬化症が疑われた際には,運動負荷検査を行う.膝関節症等で予測最大心拍数の85~ 90%に到達する運動負荷が困難な場合には,ドブタミンやジピリダモール等の薬剤負荷による代替が必要となる.なお,高齢者では心臓カテーテル法による侵襲的な診断や治療の是非は慎重であらねばならない.高齢者では生物的加齢と肉体的,並びに精神的年齢は必ずしも,一致しない.開眼片足立ちが無理なく可能で,買い物行動や情報交換,それに排泄行為が円滑に行える高齢者は,本人の希望も入れて,壮年者と同様な侵襲的検査法のよい適応と考える.
2 診断
慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure(JCS 2010)