高齢者の心不全病態を理解する際に,疫学データに基づく現状把握が参考になる.我が国では皆無に等しかった心不全コホート研究だが,最近になって少数ながら報告されてきた.慢性心不全の予後は,欧米のそれと比較して良好とするもの248)から大差ないとするもの247)まで,その報告にやや幅があるが,罹患年齢との絡みで一貫するのは加齢とともに予後が悪化する点である266).また,慢性心不全症例のうち3~4割前後を拡張不全が占める.この病態が高齢者や女性により偏りがみられる疾患分布はこれまでの欧米での報告と同様であり247),393),396),397),高血圧や心房細動の合併例が多い.冠動脈硬化症や高血圧症が軽症であっても,加齢に伴い心肥大や心筋の線維化が進行し,心室コンプライアンス低下が拡張障害を惹起する398).基礎疾患に弁膜症の占める相対的割合が減少し,冠動脈硬化症が増加してきている.弁膜症ではリウマチ性が減少し,大動脈弁狭窄症を代表とする動脈硬化性変化によるものが多い399)

 一方,高齢者では心臓そのものの病態に加え,心不全を増悪させる要因への適切な対応がより求められる.感染症,貧血,腎不全,甲状腺疾患等の全身要因,心筋虚血,不整脈等の心臓要因,β遮断薬,抗不整脈薬,非ステロイド系解熱鎮痛薬等の薬物要因,過剰輸液や輸血等医療要因,および減塩や水分制限の不徹底,
肥満,服薬コンプライアンス不良,運動過多,ストレス,うつ状態等の生活要因があげられる.
1 病態
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慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure(JCS 2010)