3 不整脈を合併する心不全の治療
 心不全では心筋細胞内のカルシウム過負荷や間質の線維化を生じており,いずれも不整脈の発生と維持を来たす基盤を形成する.駆出率が40%以下の多数例での臨床試験では,心房細動の合併率は10~ 30%と極めて高率であり217),ホルター心電図での期外収縮(>10/時間)または3連発以上の心室性不整脈の発現も40~70%の頻度にみられ197),218)-220),いずれも心不全の重症度とともに増加する1),221).同時に,これらの不整脈による徐脈や頻脈は心不全の誘因や悪化,あるいは突然死の原因となることから,心不全における悪循環を形成していると考えられる.一方で,多くの抗不整脈薬は陰性変力作用ならびに催不整脈作用を有しており,心不全患者に対して用いることができない222),223)

① 薬物治療

1)心房細動
 心房細動は主として肺静脈を起源とする期外収縮が契機となり,心房内の複数興奮波のランダムリエントリーが形成されることにより維持される.心不全患者では
心房の拡大,線維化等が不整脈発生・維持を容易にする基質を形成するものと考えられている.まず第一に,心房細動を合併する心不全では,脳梗塞を含む血栓塞
栓症を予防するために,禁忌でない限りワルファリンによる抗凝固療法が勧められる.これは,心房細動の型(発作性,持続性,永続性)によらない.心房細動では心房収縮による心室充満効果が消失するため心拍出量が減少し,特に心室レートが速くなると血圧低下や心不全を来たす.血行動態が悪化したり(血圧が80 mmHg以下),肺うっ血を来たした心房細動では,直流通電により洞調律化を図る.心拍数が早い場合には,それ自身が心不全を悪化させるだけでなく,心筋収縮力の低下を引き起こすため(tachycardia-induced cardiomyopathy)224),225), 心拍数調節を行うことが必要である.これまでジギタリスが第一選択となってきたが226),ジギタリスによる洞調律化は期待できないばかりか徐拍化効果も弱く,心不全治療も兼ねてβ 遮断薬を少量から用いることが望まれる161),182).β遮断薬が禁忌,または用いることができない場合には心拍数調節を行う目的でアミオダロンを用いることができる227)( 保険適用外).再発予防に関して,キニジンを代表とするClassⅠ群薬は死亡率を高め予後を悪化させることが知られており228),229),アミオダロンを除くⅢ群抗不整脈薬(ソタロール,ベプリジル)についてもその催不整脈作用からいずれも禁忌であり,同時にまた心不全例に対する十分な臨床研究もなされていないことから用いるべきでない.アミオダロンは副作用があるものの最も洞調律維持に優れ,欧米ではその使用経験も含めエビデンスを比較的有する唯一選択可能な抗不整脈薬である.我が国においても心不全例に対する低用量アミオダロンの使用成績として,13%の例で心外性副作用による中断が生じているものの,洞調律維持効果と心拍数抑制効果が報告されており230),心不全(低心機能)又は肥大型心筋症に合併した心房細動で保険適応となった.なお,心房細動を合併した心不全患者を対象に,洞調律維持と心拍数調節の優劣を比較したAF-CHF studyでは,両治療間に有意な差は観察されず231),患者個別に治療方針が模索されることが望ましい.

心不全患者における心房細動に対する薬物療法
ClassⅠ
 ● 抗凝固療法:心房細動を合併する心不全に対して(エビデンスレベルA)
 ● β遮断薬とジゴキシンを用いた心拍数コントロール:収縮不全による心不全を合併する心房細動に対して(エビデンスレベルB)
 ● アミオダロン:β遮断薬が禁忌,もしくは用いることができない場合の心拍数コントロール目的の投与(エビデンスレベルB)
 ● 電気的除細動:心拍数コントロールが不能で,血行動態の破綻した心房細動に対して(エビデンスレベルC)
ClassⅡ a
 ● 洞調律維持または心拍数のコントロール:収縮不全による心不全を合併する心房細動に対する洞調律維持および心拍数調節という異なる治療方針(エビデンス
        レベルA)
 ● 非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬:拡張不全による心房細動の心拍数コントロール目的(エビデンスレベルC)
 ● 待機的な電気的除細動:症状を有する持続性心房細動に対して(エビデンスレベルC)
 ● アミオダロン:心不全を合併する心房細動の再発予防目的(エビデンスレベルC)
ClassⅡb
 ● 洞調律維持をめざす治療方針:拡張不全による心不全を合併する心房細動に対して(エビデンスレベルC)
ClassⅢ
 ● ジゴキシン:心房細動の既往のない低心機能例に対して,心房細動予防目的(エビデンスレベルC)
 ● アミオダロンを除くすべての抗不整脈薬および非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬:収縮不全による心房細動に対して(エビデンスレベルC)

2)心室性不整脈
 心不全における心室性不整脈は,左室拡大やLVEF低下のある患者ほど出現頻度が高く,これらの不整脈を有する患者ほど予後が悪い.この高い死亡率は,突然死だけでなく進行性心不全からももたらされており,その意味において心室性不整脈の存在は予後不良のマーカーであると考えられる.心不全では突然死を9 ~ 22%に認め1),172),197),232),NYHAⅠ~Ⅱの方がNYHAⅢ~Ⅳよりも突然死の割合が高い183).心不全における突然死の回避には,その病因にかかわらずβ遮断薬が有用とされ161),182),183),アミオダロンも選択肢の1つである198).しかし,心不全自身に対する治療,他の誘発因子(電解質異常,虚血等)の是正が前提であり,心室性不整脈による突然死の予防にはICDを含む非薬物治療がより有効であることを認識しておく必要がある.なお,無症候性心室性不整脈に対する抗不整脈薬投与については,生命予後向上効果が得られないばかりか233),234),抗不整脈薬の副作用が出現する可能性が高く,用いるべきでない.

心不全患者における心室性不整脈に対する薬物療法
ClassⅠ
 ● 誘因の除去:精神・肉体的ストレス,電解質異常,虚血,神経体液因子等(エビデンスレベルA)
ClassⅡ a
 ● アミオダロン:ICDを装着した心不全患者におけるその作動回数減少を目的(エビデンスレベルB)
ClassⅡb
 ● アミオダロン:症候性心室頻拍を有する心不全患者で,ICDの利用が不可能な場合(エビデンスレベルC)
ClassⅢ
 ● 抗不整脈薬投与:無症候性の心室性不整脈の治療目的(エビデンスレベルA)

② 非薬物療法

1)ペースメーカによる治療

 一過性の脳虚血症状や著しい徐脈(40/分以下)のために心不全の悪化を伴う洞不全症候群や房室ブロックが主に適応となるが235),適応基準に関しては我が国と欧米との間に差はない236).心不全例では心房細動がない限り,心房心室の同期ペーシング(DDD ペーシング)を行う.医学的適応決定には,徐脈性不整脈と徐脈による運動耐容能の低下や心不全症状との因果関係の把握が最も重要である.徐脈により悪化し得る心疾患の合併や,徐脈を悪化させる可能性のある薬剤の使用が必須の場合にも,ペースメーカ治療を考慮すべきである.心不全との関わりでは,心筋症におけるペーシング治療がある.内科的治療に抵抗性を示す症候性肥大型心筋症や,PR時間延長のある症候性かつ薬剤抵抗性の拡張型心筋症で,ペーシングの適応になり得る.心不全では,しばしば心室内伝導障害を合併し,左室は非同期性収縮を来たす.このような例では,収縮の遅延した部位(左脚ブロック波形では左室後側壁等)からのペーシングを右室ペーシングに加えて行う両室ペーシングが,左室収縮の再同期化に有効である(6-1 心臓再同期療法(CRT)の項参照).

心不全患者における恒久的ペースメーカの適応
① 洞機能不全症候群
ClassⅠ
 ● 徐脈による心不全症状があり,それが洞機能低下に基づく徐脈,洞房ブロック,洞停止あるいは運動時の心拍応答不全によるものであることが確認された場合.
       それが長期間の必要不可欠な薬剤投与による場合を含む(エビデンスレベルC)
ClassⅡ a
 ● 心不全症状があるが,徐脈や心室停止との関連が明確でない場合(エビデンスレベルC)
② 成人の後天性房室ブロック
ClassⅠ
 ● 徐脈による心不全症状があり,それが第2 度,高度または第3度房室ブロックあるいは運動時の心拍応答不全によるものであることが確認された場合.それが長
       期間の必要不可欠な薬剤投与による場合を含む(エビデンスレベルC)
ClassⅡ a
 ● 症状のない第2度,高度または第3度房室ブロックで,徐脈による進行性の心拡大を伴うもの(エビデンスレベルC)
ClassⅡb
 ● 至適房室間隔設定により血行動態の改善が期待できる心不全を伴う第1度房室ブロック(エビデンスレベルC)
③ 徐脈性心房細動
ClassⅠ
 ● 徐脈による心不全症状があり,それが徐脈や心室停止によるものであることが確認された場合.それが長期間の必要不可欠な薬剤投与による場合を含む(エビ
       デンスレベルC)
ClassⅡ a
 ● 心不全症状があるが,徐脈や心室停止との関連が明確でない場合(エビデンスレベルC)
④ 閉塞性肥大型心筋症
ClassⅡ a
 ● 有意な圧較差があり,生活の質の低下を来たす症状と圧較差が関連しており,薬物治療が無効か副作用のため使用不能か,手術療法が不適切な場合(エビ
       デンスレベルC)

2)カテーテルアブレーション治療
 高周波カテーテルアブレーションの最も良い適応として,発作性上室頻拍,WPW症候群,心房粗動および一部の心室頻拍がある236),237).いずれも頻拍維持に必須な起源,または回路を熱凝固に至らしめ,破壊することで不整脈を除くものである.発作性上室頻拍と,WPW症候群,心房粗動の一部は心不全とは関係なく偶然合併したものであるが,ほとんどの症例で治癒可能である.心室頻拍は心筋の壊死・脱落および線維化等器質的心疾患を基礎とし,心不全を合併することが多い.そのような症例でもカテーテルアブレーションにより,50~70%の例で心室頻拍が治癒可能である.またICD植込み例では作動頻度を減少させる目的でも用いられることもある.Tachycardia-induced cardiomyopathyでは,頻拍を消失させることで心機能の改善がみられる238)

心不全患者におけるカテーテルアブレーションの適応
① 心房頻拍・心房粗動
ClassⅠ
 ● 心不全等の症状を伴う頻拍発作(エビデンスレベルC)
ClassⅡ a
 ● 器質的心疾患を有し心室機能低下を伴う症状のない心房粗動または心房頻拍(エビデンスレベルC)
② 上室性頻脈性不整脈に対する房室ブロック作成術
ClassⅠ
 ● 頻拍による心不全を有し,薬物治療が無効または副作用のため使用不能な上室性頻脈性不整脈で,上室性不整脈に対するカテーテルアブレーション治療が不
   成功または施行できない場合(エビデンスレベルB)
③ 心室性期外収縮
ClassⅠ
 ● なし
ClassⅡ a
 ● 心不全を有し,薬物治療が無効または副作用のため使用不能の頻発性単源性心室期外収縮(エビデンスレベルC)
ClassⅡb
 ● 心不全を有し,薬物治療が有効または患者が薬物治療を希望しない頻発性単源性心室性期外収縮(エビデンスレベルC)
 ● 無症状であるが,著しい心機能障害がある頻発性心室期外収縮(エビデンスレベルC)
④ 心室頻拍
ClassⅠ
 ● ICD 植込み後に除細動通電が頻回に作動し,薬物治療が無効または副作用のため使用不能な心室頻拍(エビデンスレベルC)
ClassⅡ a
 ● 症状を有する器質的心疾患に伴う単形性持続性心室頻拍(エビデンスレベルC)

3)植込み型除細動器(ICD)による治療
 重症心室性不整脈(持続性心室頻拍および心室細動)による突然死の二次予防にはICDが最も有効であり239),ICD により心機能抑制作用を有する抗不整脈薬の使用が回避される(β遮断薬やアミオダロンを除く).器質的心疾患に伴う持続性心室頻拍,心室細動患者に対してICDは抗不整脈薬療法よりも予後を改善し,特に左室機能低下患者において,ICDの予後改善効果が大きいことが示されている240)-242).AVID(Anti-arrhythmics Versus Implantable Defibrillators)では,心室細動からの蘇生例,および重篤な症状を伴う持続性心室頻拍患者において,ICDはアミオダロンに比較して,より生存率を改善することが示された239).また,ICDの生存率改善作用は,LVEFが35%未満の患者において最も著明であった.心機能低下に伴う非持続性心室頻拍では突然死のリスクは高いが,既往に持続性心室頻拍や心室細動のないこのようなハイリスク患者に対する一次予防効果としてもICDの有効性が証明されている.MADIT(Multicenter Automatic Defibrillator Implantation Trial)では,心機能が低下した陳旧性心筋梗塞例で,非持続性心室頻拍を認め,しかも電気生理学的検査で持続性心室頻拍が誘発されプロカインアミドが無効な場合,ICDの生命予後改善効果が抗不整脈薬治療より優れていることが示された243).また,MUSTT(Multicenter Unsustained Tachycardia Trial)では,電気生理学的検査で持続性心室頻拍が誘発されるハイリスク患者(心機能低下と非持続性心室頻拍を有する陳旧性心筋梗塞患者)に対して,電気生理学的検査ガイド下の抗不整脈薬療法は突然死,不整脈死,全死亡を改善せず,ICD がこれらを改善することが証明された244).さらに,MADITⅡ 245)では,心筋梗塞後の左室機能低下例(LVEF 30%以下),SCD-HeFT(Sudden Cardiac Death in Heart Failure Trial)199)では,左室収縮機能低下(LVEF 35%以下)を伴う症候性慢性心不全(NYHAⅡ度またはⅢ度)症例において,心室性不整脈の有無にかかわらず予防的ICD 植込みが,薬物治療よりも全死亡を減少させることが示された.欧米では,これらの症例に対するICDの予防的植込みが容認されているが235),冠動脈疾患における突然死の頻度が欧米よりも少ないと考えられる我が国においては,低LVEFのみで植込みの適応とするエビデンスはないと考えられる.また,ICD療法は対症療法にすぎず,作動時の不快感も強く,また常時不安につきまとわれる欠点がある.対費用効果も考慮すべき点である.

心不全患者におけるICDの適応
① 持続性心室頻拍・心室細動
ClassⅠ
 ● 心室細動が臨床的に確認されている場合(エビデンスレベルA)
 ● 器質的心疾患に伴う持続性心室頻拍を有し,頻拍中に失神を伴う場合,血圧が80 mmHg以下,あるいは脳虚血症状や胸痛を訴える場合,多形性心室頻拍
       の場合,血行動態的に安定している単形性心室頻拍であっても薬物治療が無効または副作用のため使用できない場合や薬効評価が不可能な場合,あるい
       はカテーテルアブレーションが無効な場合(エビデンスレベルB)
ClassⅡ a
 ● 器質的心疾患に伴う持続性心室頻拍がカテーテルアブレーションにより誘発されなくなった場合(エビデンスレベルB)
 ● 器質的心疾患に伴う持続性心室頻拍を有し,薬効評価にて有効な薬剤が見つかっている場合(エビデンスレベルB)
ClassⅡb
 ● 心移植の適応とならないNYHAⅣ度の心不全患者(エビデンスレベルC)
ClassⅢ
 ● 担癌患者等余命6 か月以内と考えられる患者(エビデンスレベルC)
② 非持続性心室頻拍
ClassⅠ
 ● 冠動脈疾患,拡張型心筋症に伴う非持続性心室頻拍があり,左室機能低下(LVEF< 35%)を有し,電気生理学的検査によって持続性心室頻拍または心室
   細動が誘発され,かつそれらが抗不整脈薬によって抑制されない場合(エビデンスレベルA)
ClassⅡ a
 ● 冠動脈疾患,拡張型心筋症に伴う非持続性心室頻拍があり,左室機能低下(LVEF< 35%)を有し,電気生理学的検査によって持続性心室頻拍または心室
   細動が誘発される場合(エビデンスレベルA)
 ● 肥大型心筋症に伴う非持続性心室頻拍があり,突然死の家族歴を有し,かつ電気生理学的検査によって持続性心室頻拍または心室細動が誘発される場合
   (エビデンスレベルC)
③ 左室収縮機能低下例
ClassⅡ a
 ● 冠動脈疾患または拡張型心筋症に基づく慢性心不全で,十分な薬物治療を行ってもNYHAⅡ度またはⅢ度の心不全症状を有し,LVEF 35%以下の場合(エ
   ビデンスレベルA)
ClassⅡb
 ● LVEFが30%以下の心筋梗塞例で,その発症から1か月以上または冠動脈血行再建術から3か月以上経過した場合(エビデンスレベルA)



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慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure(JCS 2010)