和温療法は,乾式遠赤外線サウナ装置を用いた心不全に対する新しい全身治療法である.和温療法の方法は,60℃の均等乾式サウナ浴を15分間施行した後,出浴後30分間の安静保温を行う544).これにより,患者の深部体温は約1.0℃上昇し,出浴後も30分間の安静保温により温熱効果は持続し,その間,心拍数の増加や体血圧の変化はわずかである.酸素消費量の変化は,0.3 METs程度で,和温療法は心臓に対して負荷のない,むしろ減負荷治療法である154).また,和温療法前後に体重を測定し,体重差を発汗量とし,それに見合った量(約150~ 300 mL程度)の飲水をし,脱水の予防に努める.

 和温療法の心不全に対する急性効果は,体温上昇に伴う末梢血管拡張作用により心臓に対する前・後負荷が軽減し,心拍出量が増加することによりもたらされる.さらに,肺血管および全身静脈の拡張に伴う前負荷の軽減は,僧帽弁逆流の減少および肺動脈楔入圧の減少をもたらす154)

 和温療法の心不全に対する慢性効果として,心機能(収縮能および拡張能)の改善,心不全症状の軽減を認め154),545),546),心拡大やBNPの有意な減少,末梢血管内皮機能の有意な改善が認められる547).また,心不全の予後や運動療法を施行する際に問題となる心室性不整脈は,2週間の和温療法により有意に減少する548).退院後も外来で週2 回程度,和温療法を継続することにより,心不全患者の死亡や心不全による再入院を有意に減らし,予後を改善する549).前向きの多施設共同研究により,和温療法の心不全患者に対する有用性と安全性が確認された421)

 和温療法は,心不全ハムスターの大動脈内皮における一酸化窒素合成酵素(eNOS)の発現を亢進させ,和温療法による慢性効果発現の機序の1つが,一酸化窒素による血管内皮機能の改善であることを示唆する550)

 ただし,和温療法は,急性効果として心拍出量を有意に増加させるため,高度の大動脈弁狭窄症や肥大型閉塞性心筋症の重症例に対しては慎重に施行すべきである.感染症がコントロールできていない患者や高熱患者には禁忌である.

 和温療法は心不全の治療法として保険適用ではない.

和温療法
ClassⅠ
 ● 心不全に対する薬物療法の補助療法として(エビデンスレベルB)421),548),549)
3 和温療法
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Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure(JCS 2010)