7 薬物療法の将来展望
① レニン阻害薬

 レニンは,アンジオテンシノーゲンからアンジオテンシンⅠへの変換を触媒する酵素で,RAA系の最上流にて機能している.レニン阻害薬は1980年代より高血圧治療薬として開発が進んでいたが,なかでもアリスキレンはレニン阻害活性が強く1 日1回の投与で十分な作用が期待されるため,我が国でもまず高血圧を適応症として発売された.アリスキレンの心不全治療薬としての効果については,ALOFT 384)にて,心不全重症度マーカーであるNT-proBNPを有意に低下させた他,ALLAY 385)において心肥大を抑制したことが報告されている.これらの試験結果から,ACE阻害薬,ARBやβ遮断薬と併用する薬剤として,心不全患者に有用な効果があるのではないかと期待されている.

② 中性エンドペプチダーゼ(NEP)阻害薬

 NEP阻害薬はナトリウム利尿ペプチド等の代謝を抑制する薬剤である.オマパリラートはNEP阻害作用とともにACE阻害作用も持つため,ANP,BNP等の作用増強に加え,RAA系の抑制効果を兼ね備えた,新しい心不全治療薬として期待されている.心不全に対する効果をみた臨床試験としてはIMPRESS 386)があり,オマパ
リラートが心不全患者の死亡または入院を減少させたことが報告されている.我が国でもオマパリアートは高血圧治療薬としての発売が予定されている.同様にNEP/
ACE阻害薬であるイレパトリルも慢性心不全治療薬として有用である可能性がある.

③ バゾプレッシン受容体拮抗薬

 バゾプレッシン受容体には大きく分けてV1とV2の2種類が同定されているが,心不全に効果が期待されているのはバゾプレッシンV2受容体拮抗薬である.そのう
ち現在最も開発が進んでいるのはトルバプタンである.本薬は腎集合管のV2受容体に作用し,電解質排泄には影響せずに水を排泄する.従来の利尿薬とは作用機
序が異なることから,他の利尿薬でも体液貯留が改善されない患者や,電解質の低下した患者に対しても有用性が期待され,体液貯留状態にある慢性心不全患者
にも有効である可能性がある.2007年に発表されたMETEOR387)において,トルバプタンは慢性心不全患者の予後または心不全増悪をプラセボに比較して有意に
抑制したことが報告された.同薬は米国では低ナトリウム血症の治療薬として既に販売されているが,日本においては「心性浮腫」に対しての適応を申請中である.

④ HMG-CoA 還元酵素阻害薬(スタチン)

 高コレステロール血症治療薬のスタチンが,心不全患者においてLVEFの改善やBNP値低下等の,心不全治療効果があることを示唆するいくつかの臨床試験結果が報告された.この効果は高コレステロール血症のない患者や非虚血性の心不全患者においても認められることから,スタチンのコレステロール低下作用を介したものではなく,何らかの多面的効果が関与していると考えられている.しかし,CORONA388),GISSI-HF 389)では,ロスバスタチンは心不全患者の心血管死や全死亡等の予後を有意には改善しなかった.

⑤ ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬

 PDE5 阻害薬のシルデナフィル,タダラフィル等は,肺高血圧症の治療に対して適応があるが,慢性心不全患者の運動耐容能を改善することも報告された390)

注)本項目に掲げた薬剤の一部は,2010年3月現在,我が国では未発売であるか,または心不全治療への適応がない.
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慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure(JCS 2010)