5 心不全に伴う睡眠呼吸障害(SDB: sleep disordered breathing)の治療
 職場における安全管理,仕事効率等の面から睡眠時無呼吸に対する社会的関心が高まっているが,一方で睡眠時無呼吸は様々な心血管疾患に合併し,それらの発症進展に重要な役割を果たすことが明らかになった.

 睡眠時無呼吸(sleep apnea)の定義は,10秒以上の呼吸停止が睡眠1時間あたりに5回以上,あるいは一晩(6~7時間)の睡眠中に30回以上みられる場合が相当する.また低呼吸(hypopnea)は50%以上の換気の低下が10秒以上継続する状態として定義される.1 時間あたりの無呼吸の回数はAI(apnea index: 無呼吸指数)であり,無呼吸と低呼吸を合わせたものを無呼吸低呼吸指数(AHI: apnea hypopnea index)と呼ぶ.

 睡眠中に発生する呼吸障害の総称としては睡眠呼吸障害(SDB)というもう少し広い呼び方があり,これには閉塞性,中枢性以外に,睡眠関連低換気・低酸素症候群やその他,分類不能の睡眠時にみられる呼吸障害も含まれる.

 睡眠時無呼吸には閉塞性睡眠時無呼吸(OSA: obstructive sleep apnea)と呼吸中枢からの呼吸ドライブの消失による中枢性睡眠時無呼吸(CSA: central sleep apnea)の2つのタイプがある.したがってOSAでは呼吸停止時に胸郭や副壁の呼吸努力を伴っているが,CSAでは呼吸努力は伴わない.

 一般住民においてみられる睡眠時無呼吸のほとんどはOSAで,特に過度の昼間の眠気や集中力の低下,インポテンツ等様々な症状を伴う場合には閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS: obstructive sleep apnea syndrome)と呼ばれる.一方,中枢性無呼吸は一般住民には稀なもので,多くは心不全や中枢神経疾患等に伴っ
て起きる.心不全に合併する場合は,昼間にもみられる周期的な呼吸の変動であるチェーン・ストークス呼吸(CSR: Cheyne-Stokes respiration)を伴いCSR-CSA(central sleep apnea with Cheyne-Stokes respiration)と呼ばれる.

① 心不全に合併するSDB の頻度

 心不全患者における睡眠呼吸障害の特徴は,OSAに加え,CSR-CSAを高率に認めることである.収縮不全を伴う慢性期安定心不全患者における睡眠呼吸障害の有病率は,AHI 15以上を基準とすると約50%にみられる.タイプ別にみるとCSR-CSAがOSAよりもやや多い294),295).NYHAⅡ度以上,LVEF 40%以下で,β遮
断薬を含めた標準的な薬物治療下にある700名を調査したOldenburgらの報告によると,AHI 15以上のOSAは19%,CSR-CSAは33%にみられた296).また,収縮
機能の保持された心不全においても高率に睡眠時無呼吸を合併することが明らかとなった297),298).LVEFの保持された心不全において,AHI 5をカットオフとした
場合,69.3%にSDBを伴い,そのうち OSAは39.8%,CSAは29.5%であった298)

 実際には心不全患者において純粋なOSAやCSR-CSAはむしろまれであり,両者が混在している場合が多く,どちらが支配的であるかによって閉塞性あるいは中枢性に分類される.また一回の無呼吸のエピソードのなかで,中枢タイプから閉塞タイプに変化するいわゆる混合タイプの無呼吸も多く,さらに,経過中に優位性が変化したり,一夜の睡眠中にOSAからCSR-CSAへシフトすることもある299)

② SDB が心不全の発症進展に及ぼす影響

 OSAあるいはCSR-CSAは心不全に高率に合併するが,それぞれのタイプの無呼吸が心不全の発症進展に及ぼす影響は同じではない.

1)OSA が心不全を発症,増悪する機序とその役割
 OSAは,他の危険因子と独立して心不全の発症リスクを2.38倍高めることが米国のSleep Health Heart Study300)で示されている.OSAは以下の様々な機序に
よって心負荷を増大し,あるいは心筋を傷害し,さらには心不全の原因となる様々な心血管疾患を引き起こし,心不全の発症へと導く心不全の危険因子ととらえることができる.

 OSAにおいて無呼吸のたびに繰り返される低酸素血症と中途覚醒は,夜間および日中の交感神経活性を亢進させ,急性,慢性に血圧を上昇させる結果,左室肥大を来たし,左室収縮機能や拡張機能の低下を来たす.気道閉塞時の努力性呼吸により胸腔内圧が陰圧となり,心臓には高いtransmural pressureがかかり,胸腔外に血液を拍出する左室にとっては陰圧の分の後負荷が増大する301).その結果,心筋酸素需要が増大し,酸素供給と需要のバランスがくずれ,心筋虚血,心筋収縮障害,不整脈のリスクが高まる.一方,低酸素性肺血管攣縮による肺血管抵抗の増大と,胸腔内陰圧に伴う静脈還流の増加による右室充満の増大が,右心不全の誘因となるばかりか,拡張期に心室中隔を圧排して左室充満を障害し心拍出量が低下する302).虚血性心疾患等の基礎心疾患を持つ患者では肺うっ血を来たし得る.

 OSAが心血管障害の誘発に介在する機序として,血行力学的な心負荷や交感神経活動の亢進の他に,内皮機能障害,酸化ストレス,炎症,凝固機能の亢進,さらには肥満,インスリン抵抗性等の代謝機能障害が挙げられる303).これらは,血管機能障害,冠動脈プラークの破綻,心筋障害,不整脈等を惹起し,心不全の原因となる基礎心疾患の発症や進展に関与する.

2)CSR-CSA 発生の機序とその役割
 OSAが心不全の原因や増悪要因と位置づけられるのに対し,CSR-CSAは重症心不全患者にしばしばみられることからも,心不全の結果とみなされている.CSR-CSAを伴う心不全患者は,伴わない心不全患者よりも,肺動脈楔入圧が高く304),左室拡張末期容積が大きい305).尿中ノルアドレナリン濃度が高く306),筋交感神経活動が亢進し307),運動時の換気応答が亢進している308).CSRCSAの主要な予測因子として高齢(60歳以上),男性,心房細動,低二酸化炭素(CO2)血症(38 mmHg以下)とCO2 換気応答の亢進が挙げられている295),309),310)

 心不全患者におけるCSR-CSAの出現の機序は複雑である.まず,心不全に伴う肺うっ血は肺迷走神経を刺激し過呼吸をもたらす.過呼吸になると血中のCO2分圧は低下し,CO2 化学受容体を介して本来なら適度な呼吸抑制がかかり一定の呼吸に是正されるはずであるが,心不全においては化学受容体の感受性が亢進しているため,過剰な呼吸抑制がかかり,低呼吸さらには無呼吸がもたらされる.無呼吸になりCO2が蓄積されると再び過呼吸となり,このサイクルを繰り返すことになる.これに加えて心不全では心拍出量の低下から循環時間が遅延しており,化学受容体への情報伝達の遅れを生じることが呼吸調節のずれを生じCSAの発生を助長する.中枢性CO2 感受性の亢進は,日中の労作時過換気の原因となり,睡眠の分断化による良質な睡眠がとれないことと合わせて,日中の息切れや疲労感の原因となる.

③ 心不全患者の予後に対するSDB の影響

1)OSA が予後に及ぼす影響
 OSAは,その重症度にかかわらず,心筋梗塞や脳卒中による致死的,非致死的な心血管事故の発生を有意に高めることが長期の観察研究から明らかとなってい
311),312).そのため,心不全患者においてもOSAが予後悪化の要因と考えられるが,心不全患者に併存するOSAが長期予後へ及ぼす影響をみた研究は少ない.心臓移植の適応が検討された心不全患者において,OSAの合併は52か月間の死亡率に影響しないとする報告が過去にあったが313),その一方,LVEF45%以下の心不全患者を平均2.9年間観察した研究では,中等度以上(AHI 15以上)のOSAを認めたが治療を受けなかった群は,AHI 15以下の群よりも予後が不良であることが報告され,多変量解析ではAHI 15以上の未治療のOSAは予後を規定する因子であったという314)

2)CSR-CSA が予後に与える影響
 低左心機能患者(LVEF 35%以下)においては,AHI 30以上のCSR-CSAは心臓死の独立した規定因子であり315),心移植待機患者においてCSA-CSR合併例
は非合併例に比較し長期予後が不良であるとされる316).収縮不全を伴う慢性心不全患者において,CSR-CSAは右室収縮機能障害,拡張期血圧低値とともに主
要な予後悪化因子であり,CSR-CSAがあると死亡のリスクが2.14倍になることが報告されている317).現状ではCSR-CSAは心不全の結果起きる病態であるが同
時に心不全の重症度を反映し,予後を規定する重要な因子であるとの見解が得られている315)-324)

④ 心不全に合併するSDB のスクリーニング

 SDBは心不全の病態に深く関わっており,心不全を悪化させ,さらには予後不良にする可能性がある.したがって慢性心不全患者においては,常にSDBの存在を
念頭に置き,昼間の症状の有無にかかわらずスクリーニングを行い,必要に応じて治療を行うことが望ましい.少なくとも慢性心不全で通院中の患者や心不全で入
院加療中の患者には,パルスオキシメーターや簡易検査を用いて積極的にスクリーニングを行うことが推奨される.そしてSDBの疑いがあれば,終夜睡眠ポリグラフィー(PSG: polysomnography)検査を行い診断を確定し,重症度,無呼吸のタイプ,睡眠の質等についても評価する.

心不全患者におけるSDB のスクリーニング
ClassⅠ
 ● 心不全入院患者に対する簡易計によるSDBのスクリーニング(エビデンスレベルC)
 ● スクリーニング検査でSDBが疑われた場合のPSGによる確定診断(エビデンスレベルA)
ClassⅡ a
 ● 心不全外来患者に対する簡易計によるSDBのスクリーニング(エビデンスレベルC)

⑤ 心不全に合併するSDB の治療


 OSAの治療方針は,心不全の有無にかかわらずほぼ確立している.肥満患者には体重減量を目標にし,飲酒や睡眠薬の制限等の一般療法を行い,上気道に解剖学的な異常がある場合には,耳鼻科や口腔外科に相談する.中等度以上のOSAを有する患者には持続陽圧呼吸(CPAP: continuous positive airway pressure)治療の適応と考える.我が国におけるCPAPの健康保険適用は,PSGではAHI 20以上,簡易診断装置ではAHI 40以上である.

 一方,CSR-CSAを合併する場合の治療指針は確立されていない.冠血行再建術や弁膜症手術等の基礎心疾患に対する治療と,心不全の薬物治療の最適化を基本とした上で,CSR-CSAへの直接的な介入を考慮する.心不全の病態が十分に改善した場合,CSR-CSA が著明に減少し,CSR-CSA優位からOSA優位のパターンへ変化することがあるためである.しかし,心不全治療を徹底した後にもCSR-CSAが残存することが少なくない.その場合には,各種の陽圧呼吸治療や酸素療法を検討すべきであるが,治療法の選択や開始基準は未だ定まっていない.

1)薬物治療,その他
 心不全に対する標準的な薬物治療により,合併するSDB,特にCSR-CSAは減少する.利尿薬の投与により,肺動脈楔入圧の低下,すなわち肺うっ血の改善と関連してCSR-CSAは減少する304).上気道の浮腫が改善する結果,OSAを有する拡張不全例のAHI を改善することも報告されている325).ACE阻害薬は軽中等度の心不全患者の睡眠の質を改善させる可能性があり326),β遮断薬(カルベジロール)は,NYHAⅡ~Ⅲ度の慢性心不全患者のCSR-CSAを容量依存的に抑制することが報告されている320),327).これらの標準的治療薬を十分に投与してもCSR-CSAを認める場合は他の治療法を検討すべきである.

 アセタゾラミドは利尿作用と代謝性アシドーシス誘発による呼吸中枢刺激作用を有する.慢性心不全に合併するCSR-CSAに対するアセタゾラミド就寝前投与の効果
を検討した二重盲検試験では,プラセボ群に比較してCSR-CSAの回数が半減し,睡眠中の動脈血酸素分圧低下度の減少,睡眠の質,日中の眠気が改善している321).注目される薬物治療であるが,長期的にCSR-CSAを抑制できるかは不明である.

 低左心機能で左脚ブロックや心室内伝導遅延があり,CSR-CSAを伴う患者では, 心臓再同期療法(CRT: Cardiac Resynchronization Therapy)によりCSR-CSAが減少することが報告されている322)-324),328).CRTによる左室ポンプ機能の改善は,肺うっ血,循環時間の延長,交感神経活性亢進による呼吸化学受容体感受性の亢進を是正することでCSR-CSAを減少させると考えられる.

2) 陽圧呼吸治療
①  OSA を伴う心不全に対する陽圧呼吸治療
 心不全患者のOSAに対する最も有効な治療法は,心不全のないOSA患者と同様にCPAPである.CPAPは睡眠時の上気道の閉塞を防いで無呼吸を改善し,低酸素血症,睡眠の分断化を是正し,交感神経活性を低下させる329),330).さらに胸腔内圧の陽圧化により,左室の後負荷軽減と,静脈還流量の減少による前負荷軽減が得られるため,OSAの治療のみならず,心不全自体の治療としても効果的である.CPAPは,OSAを伴う心不全患者に対する短期間の検討において,無呼吸と
心機能の改善効果に加え331),332),交感神経活性の低下333),圧受容体反射の改善334),心室期外収縮の減少335)が認められている.左室拡張機能の改善効果336)もあり,心不全の進展を阻止する効果が期待できる.

 OSAを伴う収縮障害の心不全患者を対象に,CPAPの短期的な効果を示した無作為割付け研究の成績がある331),332),337).適切な薬物療法下においてもLVEFが45%以下であるOSA合併心不全患者に対する1 か月間のCPAPは,収縮期血圧,心拍数の低下,左室収縮末期径の減少とともにLVEFを9%増加させた331).また,3か月間のCPAPによりLVEFの5%増加と夜間の尿中ノルエピネフリン排泄の減少を認めている332).一方で,auto CPAP治療とsham CPAPに割付けた6 週間のクロスオーバー試験では,auto CPAP治療群の心機能指標やpeak VO2,6分歩行距離はsham CPAP群と差を認めていない337).この研究ではCPAPの圧調整がなされず,コンプライアンスが低かったことが関係した可能性が指摘されている.

 OSAを合併する心不全患者の長期予後に対するCPAPの効果を検討した成績は少なく,無作為割付試験は実施されていない.平均2.9年の観察において,AHI
15以上でCPAP未施行の群は,AHI 15未満の群に比べて有意に死亡率が高いが,CPAP施行群では死亡例を認めていない314).平均25か月の観察において,OSAを合併した心不全患者の予後は,CPAPのコンプライアンスが高い場合に有意に改善することが我が国から報告されている338).中等症以上のOSAを合併する心不全患者に対しては,CPAPを適応すべきであるが,日中の過度の眠気がない患者への導入や,コンプライアンスの維持は必ずしも容易ではない.治療する意義を十分に説明し,適正圧を調整(CPAP titration)してAHI を少なくすることは,コンプライアンスを維持するために重要である339).軽症から中等症のOSAには口腔内装具の有効性が認められているが, 心不全患者でも有効かは不明である.CPAPの忍容性が低い場合は考慮する340)

心不全に合併するOSA の治療
ClassⅡ a
 ● 中等度(AHI20)以上のOSAを伴う心不全患者に対するCPAP治療(エビデンスレベルB)

② CSR-CSA を伴う心不全に対する陽圧呼吸治療
 CPAPがCSR-CSAの減少に有効な機序は,気道陽圧により前負荷,後負荷を軽減して心仕事量を軽減し,左心機能の改善をもたらすことである.加えて,肺を拡
張させて反射性に交感神経活性を抑制し,CO2に対する感受性を低下させる機序や,呼気終末残気量を増加させて低酸素血症を改善させる機序が想定される.

 短期間かつ少数例での研究が多いが,CSR-CSA優位の心不全に対するCPAPの有効性を示した無作為割付け研究の成績がある341)-343).CPAPは心不全
患者のCSRCSAを消失させ,心機能を改善させ,睡眠の質を向上させる341),342).僧帽弁逆流の減少やANPの低下も報告されている342).しかし,SDBの改善
への急性効果が得られないCPAP non-responderが約50%存在すると考えられている344)

 CSR-CSAを伴う心不全患者の予後に対するCPAPの効果を検証する多施設臨床試験CANPAP(Canadian Continuous Positive Airway Pressure Trial)345)
実施された.平均2年間の観察において,CPAP群では対照群に比較して,AHI の半減,夜間動脈血酸素飽和度の上昇,血中ノルアドレナリン濃度の低下,LVEFの上昇,6分間歩行距離の短期的な改善が得られたが,死亡または心臓移植率は両群間で有意差を認めず,予後の改善は証明されなかった.そのため,CSR-CSAが優位な心不全患者に対して,ルーチンにCPAPで治療することは推奨できない.しかし,CANPAPの追加解析では,CPAP開始3 か月後にAHI が15未満に改善した
群は,しなかった群より有意に予後の改善が得られており,CPAP responderの予後は良好であることが示されている346)

 一方,CPAP non-responderへの対策として,吸気と呼気を別々の陽圧に設定して換気を補助する二層性気道陽圧(bi-level PAP)がある.吸気陽圧による低呼吸
時の換気補助や強制換気による無呼吸時のバックアップの機能により,その有効性が報告されているが347),348),逆にCSR-CSAを増悪させるという報告もある349).さらには患者の呼吸に同調して陽圧をかけ,患者の換気量により自動的に適正サポート圧を選択する順応性自動制御換気(ASV: adaptive servo-ventilation)による治療法が開発され,その有用性が期待されている350)-352).CSR-CSAを認める心不全患者に対して酸素吸入,CPAP,bi-level PAP,ASVの一晩の急性効果を比較した報告では,ASVによるAHI,覚醒指数,睡眠構造の改善が最も大きかった350).ASVで1 か月の治療した報告では,AHIは有意に低下し, 客観的眠気指数は有意に改善し,BNP,尿中カテコラミン排泄量も有意に低下した351).ASV群とCPAP群を無作為割り付け6 か月間追跡した結果,ASVはCPAPよりも高い忍容性がみられ,AHI をより低下させ,LVEFの改善,QOL指標の改善も有意に高いことが報告された352).我が国からもCPAP,bi-level PAPでCSR-CSAの改善が不十分な症例へのASVの急性効果が報告されている353).心不全患者の多くにはOSAとCSR-CSAが共存しているが,ASVは両者の割合にかかわらずAHI を確実に低下させ得ることから,その有用性が期待される.我が国では2つのタイプのASVが使用可能であるが,国内で行われたランダム化試験では,flow-triggeredタイプのASVがOSAとCSR-CSAの両者を有する心不全においてCPAPと比較してAHI,LVEF,QOL等を有意に改善することが報告された354)

 CPAPは,十分にCSR-CSAが抑制された場合においては予後は良好であることが示されたが346),それ以外には,それぞれの陽圧呼吸療法による長期予後の改善を示す成績は現時点では得られていない.

3)酸素療法
 酸素療法がCSR-CSAを減少させる機序は以下の通りである.PaO2の上昇は,中枢のCO2 感受性の亢進を軽減し,PaCO2のゆらぎの振幅を低下させる.またPaO2の上昇は換気努力を減少させ,分時換気量を低下させることで,正常呼吸時のPaCO2が上昇し,無呼吸閾値から乖離させる355).結果としてCSR-CSAは減少し,交感神経活動が抑制され,睡眠構築の改善が認められる.

 夜間酸素療法は,短期間の検討において,慢性心不全患者のCSR-CSAの消失,交感神経活性の抑制,運動耐容能の改善, 血漿BNP濃度の低下が報告されている356)-358).我が国において慢性心不全患者に対する酸素療法の効果を検証した多施設共同研究の成績がある359),360).CSR-CSAを有するLVEF 45%以下の慢性心不全患者(NYHAⅡ~Ⅲ度)を酸素投与(3 L/分)群と従来の薬物療法群に無作為に割付け3か月間追跡した結果,酸素投与群ではAHI が減少し,身体活動指数で評価した自覚症状は有意に改善し,1年間の比較臨床試験においても確認された.医療経済的に費用/便益が良好であることも報告されている361).我が国では,酸素療法はNYHAⅢ度以上の慢性心不全患者で,睡眠中にCSR呼吸が認められ,AHI が20以上あることがPSGで確認された患者に対して保険診療が認められている.

 夜間酸素療法は,その簡便性から患者への負担が少なく,コンプライアンスも良好であるが,慢性肺疾患や高度肥満の例ではPaCO2が上昇し,意識障害を引き起
こすことがまれにあるため,その流量の調節については慎重な判断と病態の理解が必要である.OSA主体の患者には適応しないのが原則である.

4)心不全患者に合併するSDB への対応の実際
 SDBを合併した心不全患者への治療選択をチャートに示す.OSAが大部分の場合にはCPAPを試みる.OSAとCSR-CSAを同程度に混在して認める場合は,酸素
療法やCPAP,bi-level PAP,ASVのそれぞれが選択肢となる.心不全治療を最適化した後もCSR-CSA単独の場合は,酸素療法またはASVを選択することが望ましい.陽圧呼吸治療を選択した場合,可能な限り治療下にPSGを行って適正圧を調整することが望い.心不全の急性期よりこれらの治療を導入した場合には,心不全が改善した後に現行の治療の妥当性を再評価すべきである.いずれの治療も長期予後の改善効果は明らかではないため,患者の状態を注意深く観察しながら治療を継続する.

心不全に合併するCSR-CSA の治療
ClassⅠ
 ● CPAPに忍容性のない心不全患者へのASV治療(エビデンスレベルC)
ClassⅡ a
 ● CSR-CSAを伴う心不全患者に対する在宅酸素療法,CPAP治療,ASVまたはBi-level PAP治療(エビデンスレベルB)
ClassⅢ
 ● OSAが主体で,CSR-CSAを認めない心不全患者に対する在宅酸素療法(エビデンスレベルC)



 
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慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure(JCS 2010)