浮腫を有する非代償性心不全,急性増悪時には運動は禁忌であり活動制限と安静が必要である.しかし薬物治療あるいは外科的治療がなされている状態の安定した慢性心不全では,安静によるデコンディショニングは運動耐容能の低下を助長するとともに,労作時の易疲労感や呼吸困難等の症状を悪化させる要因となる.特に高齢患者においては,加齢による退行性変化および廃用性変化により,日常生活動作(ADL: Activity of daily living)が低下する.特に,下肢筋力やバランス機能の低下が著しいため151),歩行や階段昇降等移動動作が制限されやすく容易に転倒し,排泄行動や,家事,社会活動等,患者の日常生活全般に影響を及ぼす.したがって,心不全患者の一般管理において,ADLの評価は重要であり,連続歩行,階段昇降といった運動耐容能の評価とともに,排泄行動,入浴,食行動,家事等の
日常生活動作能力の評価も必要である.適度な運動は,運動耐容能を増して日常生活中の症状を改善しQOLを高めることが明らかとなっており152),153),ADLの維持,拡大にも有効である.運動療法の詳細については,本ガイドラインの運動療法の項,および「心疾患における運動療法ガイドライン」を参照されたい.
8 安静と運動
慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure(JCS 2010)