1 自己管理能力の向上
患者の自己管理が重要な役割を果たし,自己管理能力を向上させることにより,予後は改善する142) .外来患者における,毎日の体重測定や塩分制限の遵守率は約50%と報告されており,医療従事者は患者の自己管理が適切に行われているかを評価し,患者および家族に対する教育,相談支援により患者の自己管理能力の向上に努める143),144) .患者,家族あるいは介護者に対し,息切れやむくみ等心不全の主要症候,特に急性増悪時の症状とその対処方法については充分な説明が必要である.労作時息切れおよび易疲労感の増強や安静時呼吸困難,下腿浮腫の出現のみならず食思不振や悪心,腹部膨満感,体重増加等が心不全増悪の症候であることを患者に充分理解させる. また,症状モニタリングのうち,毎日の体重測定(毎朝,排尿後)は重要であり,短期間での体重増加は体液貯留の指標として有用である.日の単位で体重が2 kg 以上増加するような場合は,急性増悪を強く示唆する.これらの症候により増悪が疑われた場合には自ら活動制限,食塩制限を厳しくするとともに,速やかに受診する ことを指導する.高齢患者では,浮腫等の症状に気づきにくいため,家族あるいは介護者による注意が必要である. 服薬の中断は増悪誘因のひとつであり145) ,服薬順守は治療成功の鍵となる.薬剤名,投与量,投与回数,副作用を指導するとともに,薬剤師と連携し投薬量のチェック,コンプライアンスのチェック,副作用のモニタリング等を行うことが必要である. 自己管理能力を高めるために,患者教育を行う際には,患者の理解度を高めるための教材を有効に活用することも重要である146) . 自己管理能力が十分でない,高齢者,独居者,認知症(合併)症例等,心不全増悪のハイリスク症例については,家族への教育,支援とともに,訪問看護等の積極的活用が求められる.
慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版) Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure(JCS 2010)