1 総論
 慢性心不全とは狭義の意味からは,“慢性の心筋障害により心臓のポンプ機能が低下し,末梢主要臓器の酸素需要量に見合うだけの血液量を絶対的にまた相対的に拍出できない状態であり,肺,体静脈系または両系にうっ血を来たし日常生活に障害を生じた病態”と定義する.労作時呼吸困難,息切れ,尿量減少,四肢の浮腫,肝腫大等の症状の出現により生活の質的低下(Quality of Life;QOLの低下)が生じ,日常生活が著しく障害される.また致死的不整脈の出現も高頻度にみられ,突然死の頻度も高い.心不全はすべての心疾患の終末的な病態でその生命予後は極めて悪い.従来は急性心不全と同様に血行動態的諸指標やうっ血の有無より診断,評価されていた.しかし,近年の病態解析の進歩により,慢性心不全では交感神経系やレニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系に代表される神経内分泌系因子が著しく亢進し,その病態を悪化させていることが判明した.その結果,慢性心不全は種々の神経内分泌因子が複雑に関連し合った1 つの症候群と考えられるようになった.

 また,最近,心筋収縮性は比較的保たれているにもかかわらず,心室拡張性の低下により心不全症状が出現する,いわゆる“heart failure with preserved ejection fraction”の概念が確立されつつある.慢性圧負荷や前述した神経体液因子の亢進により生じる心室リモデリング(心肥大,心拡大),心筋線維化,心内膜下虚血,心筋細胞内カルシウム動態の異常等が拡張障害の大きな要因であると言われているが,まだその病態の詳細は不明な点多い.

 慢性心不全の概念は医学の進歩とともに変遷してきており,今後21世紀にも概念がどのように変化していくのか見守る必要があろう.
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慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure(JCS 2010)