一般的事項
心不全の病態の説明
身体的変化(症状・徴候)
精神的変化
予後
症状のモニタリングと管理
心不全増悪時の症状
体重の自己測定(毎日)
症状増悪時の対処方法
精神症状の対処方法
食事療法
ナトリウム・水分制限
アルコール制限
遵守するための方法
薬物療法
薬の性質,量,副作用
併用薬剤
複雑な薬物治療への対処
費用
遵守するための方法
活動・運動
仕事および余暇
運動療法
性生活
遵守するための方法
危険因子の是正
禁煙
肥満患者における体重コントロール
脂質異常症,糖尿病,高血圧の管理
1.包括的アプローチ
2.教育および支援(患者や家族あるいは介護者に対して)
3.薬物治療の適正化
4. 退院後の十分かつ頻回なフォローアップ(外来・在宅・電話)
5.医療専門職との密接な連絡
6.ケアの連携・統合
7.心不全症状・徴候の早期発見
8.運動療法
欧米では1990年代半ばから慢性心不全患者を対象として疾病管理の予後に対する有効性を検証する介入試験が行われてきた.その結果,患者教育,治療コンプライアンスの向上,訪問や電話等による患者モニタリング,治療薬の調節,看護師による管理等の疾病管理が予後の改善に有効であることが報告されている.薬物療法の心不全増悪による再入院に対する減少効果は,ACE阻害薬で22%(SAVE)155),β遮断薬で32%(CIBISⅡ)161),ジギタリスで23%(DIG)162),スピロノラクトンで35%(RALES)38)にとどまっており,疾病管理の効果は薬物治療の効果と同等あるいはそれ以上と考えられる.さらに疾病管理は単独で効果を有するものではなく,それによって,最適な薬物治療が行われ,治療アドヒアランスが向上し,治療効果を最大限に引き出せる.
我が国の慢性心不全患者も心不全増悪による再入院率が高く,その誘因を検討すると,ナトリウム・水分制限の不徹底が33%と最も多く,過労,治療薬服用の不徹底,精神的または身体的ストレス等の予防可能な因子が上位を占めた.感染症・不整脈・心筋虚血・高血圧等の医学的要因よりむしろ多かった.さらに,心不全増悪による再入院の規定因子として退院後受診頻度が月0~ 1 回の患者は,それ以上の患者より再入院のリスクが約5倍高かった145),163).このような慢性心不全患者の実態は,疾病管理が我が国の慢性心不全患者の再入院予防においても必要であることを示している.
疾病管理の要点は,多職種(医師・看護師・薬剤師・栄養士等)によるチーム医療,退院時指導,フォローアップ計画(病診連携),ガイドラインに沿った薬物治療,十分な患者教育・カウンセリング,患者モニタリングによる心不全増悪の早期発見等が挙げられる(表8,9)164),165)中でも患者教育は極めて重要である.患者,家
族および介護者等に慢性心不全の特徴,心不全増悪時の症候とその対処方法,薬物治療に関しての十分な説明を行うとともに,ナトリウム,水分制限,活動制限や
禁酒,禁煙の指導を行う.さらに,毎日の体重測定,規則的な服薬等自己管理の重要性を明確にすることが必要である.
一般管理
ClassⅠ
● 多職種による自己管理能力を高めるための教育,相談支援:患者および家族,介護者に対して
● 体重測定と増悪症状のモニタリング
● 薬物治療の継続および副作用のモニタリング
● 禁煙
● 症状安定時の適度な運動
ClassⅡ a
● 1日7 g程度のナトリウム制限食
● 節酒
● 感染症予防のためのワクチン接種
● 精神症状のモニタリングと専門的治療:抑うつ,不安等に対して
● 心不全増悪のハイリスク患者への支援と社会資源の活用:独居者,高齢者,認知症合併者等に対して
ClassⅢ
● 大量の飲酒
● ED治療としてのPDE5 阻害薬と亜硝酸薬の併用: 重症心不全患者に対して
13 多職種による包括的疾病管理プログラム
表8 慢性心不全患者に対する疾病管理プログラムの要点
(文献164 より改変引用)
表9 慢性心不全患者および家族・介護者に対する教育・
カウンセリングの内容(文献165 より改変引用)
慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure(JCS 2010)