エビデンスレベル
A 複数の無作為化臨床試験あるいはメタ解析で証
明された結果
B 単独の無作為化臨床試験あるいは大規模な非無
作為化試験で証明された結果
C 専門医の間での合意事項,または,症例報告・
レトロスペクティブ解析・レジストリに基づく
事項,標準的と考えられる治療等
治療推奨度
Class Ⅰ: エビデンスから通常適応され,常に容認さ
れる
Class Ⅱ a: エビデンスから有用であることが支持さ
れる
Class Ⅱ b: 有用であるエビデンスはまだ確立されて
いない
Class Ⅲ: 一般に適応とならない,あるいは禁忌であ

改訂にあたって

 2000年秋,日本循環器学会学術委員会の指定研究班“慢性心不全治療ガイドライン作成研究班”(松﨑益德班長)から「慢性心不全治療ガイドライン」が出版され,
2005年末の改訂版出版を経て,10年が経過した.初版および2005年改訂版ガイドライン作成においては,日本循環器学会をはじめとする7学会(日本循環器学会,
日本心臓病学会,日本心不全学会,日本胸部外科学会,日本小児循環器学会,日本心電学会,日本高血圧学会)から推薦いただいた班員で研究班を組織しガイド
ラインを作成した.今回,2005年改訂から5年が経過したため,班員の一部を刷新し,2010年度改訂版を出版することとした.今回改訂版では,心不全治療における多面的な背景・治療戦略の進歩をふまえ,新たに日本移植学会,日本心臓血管外科学会,日本心臓リハビリテーション学会,日本超音波医学会,日本内分泌学会,日本不整脈学会を加えた13学会から班員を推薦いただき研究班を組織した.

 2009年4 月より開始した作成班会議においては,上記循環器関連学会から学術的にも臨床的にも慢性心不全治療分野において指導的立場で活躍されている16名の専門家に参加いただき,改訂版ガイドライン作成作業を行った.また,関連施設から協力員として計9名の先生方にも執筆作業に協力いただき,限られた時間と予算の中で可能な限りデータを収集し,日本人を対象とした慢性心不全治療ガイドライン作成に務めた.

 2000年ガイドライン作成当時は,日本人を対象とした慢性心不全患者の治療に関する信頼できるEvidenc.Base.Medicine(EBM)が皆無に近く,欧米のデータ
を参考に作成せざるを得なかったが,この10年間で,日本人を対象にした心不全患者の診断・治療に関わるデータが徐々に蓄積してきた.まだ,十分なEBMがそろ
っているとはいえないが,日本人を対象とした新しい知見に関しては今回改訂版に反映させた.まだ,エビデンスが十分でない領域については,現時点で考えられ得
る最良の方法と考え得るものを研究班会議での議論に基づき記載した.

 前版からの主な変更点は,治療推奨度を表すクラス分類において,ClassⅡClassⅡaClassⅡbに分け,全体として4 つの群に分類し直したこと,さらに治療戦
略においてはその分類の根拠となる臨床試験の結果をふまえ,エビデンスレベルをA~Cとして付加した点である.すなわち,
とした.

 さらに,欧米のデータであるが,非薬物療法として心臓再同期療法の進歩もガイドラインとして追加した.従来,酸素療法として記載していた心不全患者における睡
眠呼吸障害の問題は,新たに心不全における合併症として項目を追加した.また,エビデンスはまだ十分でないところもあるが,他の非薬物療法として運動療法や和温療法の適応についても言及した.心不全患者の治療戦略ならびにその生命予後には性差が存在することが明らかとなり,性差をふまえた心不全治療についても新たに項目として追加した.

 また,このガイドラインでは,一般成人に対する治療ガイドラインとは別に,高齢者と幼児・小児の慢性心不全に対する治療ガイドラインとを分けて記述してきた.内容的には臨床の場での実践的な面を重視し,一般臨床医師だけでなく循環器専門医にも役立つ内容とした.記載した治療法や治療薬の中には,まだ我が国では保険
適用となっていないものが含まれているが,日常の臨床現場で診療に従事する医師への最近の医療情報の提供,学習教材としての利用も本ガイドライン作成の趣旨として,世界的にコンセンサスの得られている治療法,治療薬については保険適用外であっても記述した.また,治療法の項では,非薬物療法として心臓外科領域の専門家にも補助循環,人工心臓,左室容積減少術および心臓移植についてその適応ガイドラインを示してもらった.現在,我が国ではまだ慢性心不全治療としては,承認されていない薬物や治療法でも明確なエビデンスが報告されているものには,未承認であることを示して記載した.

 この20年間における慢性心不全の病態解析の進歩は著しく慢性心不全を単に心疾患とする概念から神経体液因子を含む広範な異常により生じる症候群であるという考え方が確立してきた.また,近年,心不全患者の高齢化に伴い,腎機能障害や貧血等合併症を有する病態に対する治療法の確立が喫緊の課題となっている.これらの点について,まだコンセンサスが得られる治療法が確立されていないものについては現時点での最良の指針となるべく記述を行った.

 本ガイドラインは,現在までに報告されたEBMに基づき作成されたものであり,当然将来は再び改変される部分もあることを念頭に置き,日常診療の場で参考にし
ていただければ幸甚である.
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慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure(JCS 2010)