運動能への低下度最大酸素摂取量(mL/kg/分) 嫌気性代謝閾値(mL/kg/分)
正 常~ 軽 度>20 >14
軽 度~ 中等度16~20 11~14
中等度~ 高 度10~16 8~11
高度6~10 5~8
著しく低下<6 <5
自転車エルゴメータ
年齢(歳)/性20~29 30~39 40~49 50~59 60~69
嫌気性代謝閾値
男性18.4±3.6 16.1±3.1 15.1±3.0 15.3±2.9 17.5±2.9
女性15.6±2.5 16.6±3.6 16.2±2.2 16.0±2.6 15.5±1.8
最大酸素摂取量
男性33.5±6.7 29.7±6.8 27.4±5.4 25.9±4.7 29.5±4.4
女性25.7±5.9 27.3±6.1 23.6±4.7 23.8±4.3 22.7±4.5
トレッドミル
年齢(歳)/性20~29 30~39 40~49 50~59 60~69
嫌気性代謝閾値
男性20.1±3.6 18.2±4.1 17.3±3.0 17.8±3.2 20.2±3.2
女性17.6±3.0 17.9±2.8 16.8±2.6 16.6±3.0 17.3±2.1
最大酸素摂取量
男性40.1±7.5 37.7±8.1 33.2±6.5 32.2±6.6 37.6±5.1
女性33.1±5.1 34.5±4.5 29.0±5.7 27.0±4.0 30.7±3.8
1. 下記の心疾患患者における運動耐容能の評価あるいはその疑い患者における鑑別診断
1)心不全(慢性心不全,左心不全,右心不全等)
2)心筋症(肥大型,拡張型,二次性等),高血圧性心疾患,弁膜症,先天性心疾患
3)虚血性心疾患(狭心症,無症候性心筋虚血,心筋梗塞等)
4)徐脈性不整脈(洞不全症候群,房室ブロック等)または頻脈性不整脈(心房細動,心房粗動,発作性上室性頻拍,心室性期
外収縮等)
5)肺高血圧症(軽症または中等症)
2. 下記の心血管疾患患者の治療方針決定,運動処方あるいは治療効果の評価
1)心不全(慢性心不全,左心不全,右心不全等)
2)心臓移植適応を検討する場合
3)心大血管リハビリテーション適応疾患(急性心筋梗塞,狭心症,開心術後,大血管疾患,慢性心不全,末梢動脈閉塞性疾患)
患者において運動処方を決定する場合
4)ペースメーカ・ICD・CRT・CRT-D埋め込み患者の至適プログラム決定,または運動処方を決定する場合
5)高血圧・糖尿病・高脂血症に対する運動療法の安全性確認と運動処方を決定する場合
6)心血管疾患患者の多臓器に対する手術の安全性を確認する場合
3. 下記の呼吸器疾患患者における運動耐容能の評価あるいはその疑い患者における鑑別診断
1)慢性閉塞性肺疾患(肺気腫,慢性気管支炎,気管支喘息)
2)間質性肺疾患
3)肺血管疾患
4)先天性肺疾患
5)膿胞性肺疾患
6)運動誘発性気管支痙攣
4. 下記の呼吸器疾患患者の治療方針決定,運動処方あるいは治療効果の評価
1)慢性閉塞性肺疾患(肺気腫,慢性気管支炎,気管支喘息)
2)呼吸器疾患リハビリテーション適応疾患患者において運動処方を決定する場合
3)肺手術前の評価
4)心肺移植適応を検討する場合
5. 原因として心疾患,呼吸器疾患その他が疑われる下記の症状・病態の鑑別診断
1)労作時の動悸息切れ
2)労作時易疲労感
3)運動耐容能低下
1 活動能力と運動能力
 慢性心不全による活動能力の低下は,患者のQOLと充実度を直接に低下させるため,その改善は治療の主要目標である.活動能力は運動能力のみならず,心理的状態,認識能力,社会的環境等に依存する.これらの評価は初期の病態把握および管理をする上で極めて重要である118).患者の活動能力を規定する最も重要な因子は運動能力である.患者は運動能力に応じた活動性を維持することが原則であるが,日常活動の許容範囲,職種や業務内容の選択,手術に際してのリスクの評価等に運動能力の評価は必須である119).また,運動能力は独立した予後規定因子でもあり120),運動能力の指標である最大酸素摂取量の低下は心臓移植の適応基準の1つとなっている.

 日常生活の活動レベルは,心理的要因,認識能力および回復意欲,疾病と治療の理解に基づく服薬および生活指導の遵守,家族を含む皺胃からの支援等により影響される.これらの因子,特に反応性うつ状態,病識,家庭および社会環境については,定期的に評価しなければならない.

① 活動能力の評価法

 NYHA重症度分類にみられるごとく問診による労作時の症状の評価は,定量性や客観性に乏しいという問題があるが,簡便であり何よりも患者の自覚である点が重
要である.そこで基本的な日常活動と酸素摂取量を対応させた身体活動能力質問表(SAS: Specific Activity Scale)があり,特に日常生活で自覚症状が出現する中
等症から重症の慢性心不全の運動能力評価に有用である121),122)

活動能力・運動能力の評価
ClassⅠ
 ● 問診:運動能力,心理的状態,認識能力,社会的環境等の把握
 ● 心肺運動負荷試験:心移植やその他の高度な治療適応を検討するため
 ● 心肺最大運動負荷試験:労作時呼吸困難や易疲労性が運動制限因子となっている患者で原因を鑑別するため
 ● 最大酸素摂取量測定:予後評価のため
ClassⅡ a
 ● 心肺最大運動負荷試験:運動処方を作成するため
 ● 心肺運動負荷試験:心房細動,ペースメーカ患者の心拍数応答や至適プログラム決定,運動時の血圧,不整脈,身体障害の程度の評価,運動能力の変化と治
    療の評価等のため
ClassⅢ
 ● ルーチン検査としての最大負荷試験

② 運動能力の評価法

 NYHA重症度分類は運動能を表すには感度が低いため,規格化された運動負荷試験が必要である.6分間歩行試験は重症例においては予後評価や機能障害の評価に有用なこともあるが,その変化は臨床的身体状況とは一致しないこともある123).最大酸素摂取量の測定は,予後評価120),124)-126)心臓移植候補者の決定120),126)-128),重症度評価129),130),運動処方作成のための適切な方法131)である.

1)運動負荷試験
 運動能力を定量的に評価する標準的方法は,トレッドミルや自転車エルゴメータを用いた症候限界性漸増負荷法による動的運動負荷試験である132).標準化したプロトコールによる運動時間,最大運動時の仕事率,あるいは最大酸素摂取量により評価される.最大酸素摂取量は最大心拍出量の第一次近似であり,心血管系の最大酸素輸送能および末梢の最大酸素利用能を反映する133)

 呼吸困難(息切れ)や易疲労性が運動制限因子となっている患者では,その運動制限が心不全によるものか,それ以外によるものかを鑑別する必要がある.運動負荷試験に呼気ガス分析,動脈血酸素飽和度,または観血的血行動態測定を併用して,はじめてこれを明確に診断できることもある.連続呼気ガス分析により,運動中の酸素摂取量(VO2),二酸化炭素排泄量(VCO2),分時換気量(VE)等がモニター可能である.ガス交換比(VCO2/VO2)を含む呼気ガス解析指標の実時間モニターは,個々の患者の相対的運動強度を知り得ることから,安全に運動負荷試験を行うために有用である.また,各種指標の時間軸に対する変曲点や相互の関係から検出し得る指標に,嫌気性代謝閾値(AT: Anaerobic threshold)134),呼吸性代償開始点(RC: Respiratory compensation point),換気効率(VE vs. VCO2 slope etc.)99),仕事率増加に対するVO2 増加の割合(⊿VO2/⊿WR)135)等がある.連続呼気ガス分析を併用する運動負荷試験(心肺運動負荷試験)の適応136)表5に示す.

 ATは,活動筋への酸素供給が不充分となり,有機的代謝に無機的代謝が加わる直前の運動強度である.ATを超えると,産生された乳酸が重炭酸イオンによって緩
衡されて,過剰に産生される二酸化炭素により酸素摂取量増加に対する二酸化炭素排泄量の増加率が増えはじめる点として捕らえられる134).ATは,健常坐業成人では最大運動能力のおよそ50~ 55% 130),134)であるが,年齢や心不全重症度とともに最大運動能力の低下がATの低下を上回るため上昇する130)

 運動能力を定量的に評価するためには,呼気ガス解析により最大酸素摂取量を測定する必要がある.日本人の最大酸素摂取量とATの標準値137)表6に,最大酸素摂取量とATによる慢性心不全の機能分類138)表7に示す.最大運動能力は年齢とともに約8~ 10%/10年の割合で低下するとされるが130),139)残念ながらこの調査では高齢者で運動能力の高い被検者が多かったためその傾向がみられず,50歳以上では基準値としては不適当であり,再調査が待たれるところである.運動耐容能とNYHA機能分類を関連づけるためには,年齢,性別で補正した基準値を用いる.Peak VO2,嫌気性代謝域値いずれもNYHA ClassⅠでは対応する基準値の約90%,ClassⅡでは約75%,ClassⅢでは55~ 60%となる130)

2)6 分間歩行試験
 特殊な設備が不要な簡便法として6分間歩行試験がある.20~ 50mの廊下を,6分間の最大努力による歩行距離を測定するものであり,およその運動能力を推定し得る123),140).6分間歩行距離は身長と体重および年齢に関連しており,日本人の正常域(m)は[454- 0.87×年齢(歳)- 0.66×体重(kg)]±82(2標準偏差)に身長(m)を乗じたものとされる141)
表5 心肺運動負荷試験の適応(文献136より転載,一部改変)
表6 日本人の嫌気性代謝閾値・最大酸素摂取量の標準値(mL/kg/分)(文献137より引用)
*嫌気性代謝閾値はV-slope法により求めたものを示す.50歳以上の群では日常活動度の高いボランティアが多かった.
表7 トレッドミルを用いた多段階漸増負荷試験から求めた嫌気性代謝閾値と最大酸素摂取量による慢性心不全の機能分類
文献138より引用
Ⅰ 慢性心不全病態と診断 > 5 活動能力の評価 > 1 活動能力と運動能力
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慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure(JCS 2010)