2 末梢循環障害の成因
慢性心不全では末梢循環障害の成因は,神経体液因子特に交感神経系の賦活化による過剰な血管収縮と,血管拡張能の低下に大別される106),107).
① 過剰な血管収縮
心不全での過度の血管収縮には,主として交感神経緊張の亢進が関与する.血圧上昇に対する動脈圧受容器反射機能の低下,中心静脈圧や左室拡張末期圧の上昇に対する心肺圧受容器反射機能の低下,筋肉内化学受容器を介した神経反射性交感神経活動の亢進等の神経反射機能異常がその主因である.
② 血管拡張能の低下
心不全患者では内皮機能障害がある107),108).前腕の反応性充血時に血流増加反応,運動時の血流増加,血管拡張薬による血流増加反応が低下することが報告されていたが109),加えて,心不全患者の血管拡張能低下の機序の1つとして,種々の刺激に対する内皮由来血管拡張因子である一酸化窒素(NO)の産生低下がある110),111).前腕血管を用いて,反応性充血時の前腕血管径の増加度(%FMD: Percent Flow Mediated Dilation)や,プレチスモグラフィによる血流変化の測定方法がある.心不全患者では%FMDが将来の左室機能と関連すること,%FMDの低値群では,高値群に比し,生命予後が明らかに悪化していることが示されている112),113).血管拡張能が低下する機序として,心拍出量低下に伴う慢性的な末梢血流量の低下(シェアストレスの減少),組織RAA系の活性化,酸化ストレスの亢進や内皮由来血管収縮因子の増加が考えられている.また,心不全患者では低下した反応性充血による末梢血管拡張反応や,運動時の前腕血流増加反応が,NOの基質であるLアルギニン投与により改善することが報告されている114).以上のことから,慢性心不全患者の末梢血管においては,血管内皮によるNO産生・放出障害およびLアルギニンの利用障害が存在し,内皮機能異常および運動時の骨格筋血流増加反応の低下に関与することが示唆される.
③ 運動耐容能低下と骨格筋の循環障害
慢性心不全患者の運動耐容能が必ずしも心機能低下の程度と相関しないという事実からも115),116),慢性心不全患者の易疲労性や運動耐容能の低下は,骨格筋循環障害と密接な関係がある.
健常者では,運動により運動骨格筋の血流は安静時の数倍から10数倍に著増する.これは,心拍出量増加と,血流の再分布による.すなわち,運動により皮膚,腎,腹部臓器および非運動筋では血管収縮が起こり,血流再分配による運動骨格筋血流の増加が生じる.これに対し,慢性心不全患者では,運動による心拍出量の増加は著明に制限される.健常者に比し運動筋血流の増加は制限される109).これが慢性心不全患者における易疲労性・運動耐容能低下の一因であり,上述のような血管内皮機能低下が大きな役割を果たすと考えられている.実際,慢性心不全患者ではNYHA重症度分類の増悪に伴い,末梢血管でのアセチルコリンによる血流増加反応が低下する117).
臓器血流の評価法
ClassⅠ
● 冠血流:負荷心筋シンチグラフィ:心筋虚血が疑われる場合
● 冠動脈造影:冠動脈疾患の診断ならびに治療の目的として
ClassⅡ a
● 冠血流
● 負荷心筋シンチグラフィ:慢性心不全患者全体に対するルーチン検査として(エビデンスレベルB)
● 心筋PETによる非侵襲的定量的評価
ClassⅡb
● 脳血流イメージング(脳SPECT,MRI)
● 腎血流
パラアミノ馬尿酸(PAH)クリアランス法(有効腎血漿流量の測定)
腎動態レノグラフィ
腎血管超音波ドプラ法
● 骨格筋血流
超音波ドプラ法
プレチスモグラフィ
温度希釈法
● 皮膚血流
サーモグラフィ
指尖脈波
ClassⅢ
● 冠動脈造影:冠動脈疾患の存在が否定的な患者,血行再建,弁置換術,心移植の対象とならない患者および慢性心不全患者全体に対するルーチン検査として
慢性心不全治療ガイドライン(2010年改訂版)
Guidelines for Treatment of Chronic Heart Failure(JCS 2010)